ヒトラーの経済政策 (祥伝社黄金文庫)

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  • 祥伝社 (2020年12月11日発売)
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フリーライターが、ナチスの経済政策について書いた本。ヒトラーの経済政策というより、シャハトの経済政策について書かれている。戦後、ナチスの政策は典型的な全体主義国家の行いということで、ありとあらゆる出来事に悪の烙印が押されているが、一次大戦から二次大戦にかけての戦間期に行われたシャハトの経済政策は、ハイパーインフレのどん底からドイツを復活させた驚くべき功績といえる。政策の細部が書かれており勉強になった。ただし、二次大戦に至る開戦経緯を経済の面から書いているが、あまりに一面的な記述で内容が薄い。安全保障の知識には欠如が見られ、残念。

「ヒトラーが政権を取るや否や、経済は見る間に回復し、2年後には先進国のどこよりも早く失業問題を解消していたのである。そればかりか、ナチスドイツでは、労働者も環境が整えられ、医療、厚生、娯楽などは、当時の先進国の水準をはるかに超えていた」p4
「思想的な是非はともかく、経済政策面だけに焦点を当てた場合、ヒトラーは類まれなる手腕の持ち主ということになるだろう」p4
「ヒトラーというと、独断的な政策運営をしていたと見られがちである。しかし、実際のヒトラーは、有能な人材を見つけ、大仕事を任せるということも多いのだ。シャハトなどはその典型的なケースである」p36
「公共投資においては、投資した金が、貯金に回される額が少なければ少ないほど、景気への効果は高い」p40
「地域の利権が網の目のように張り巡らされている日本では、公共事業を行っても地方の金持ちを潤すだけで終わるので、そうそう経済効果を上げられるものではないということである」p42
「ナチスは、それ以前の政権に比べて格段に統制が厳しくなったにもかかわらず、デモやストライキなど、市民の不満を伴った社会運動はあまり起きなかった」p44
「自由に競争して、市場の支持を得られた方が勝つ、それが自由主義、資本主義の原則である」p48
「(ベルリンオリンピックについて、米ジャーナリスト マクガヴァン)私たちは、ドイツ国民が親切で公平、寛大なホスト役をみごとに果たしたのを見た」p62
「実際のところ、市民はナチスに対してそれほど悪い印象は持っていなかったのだ。ナチスの時代は、景気も良く、治安も目に見えてよくなっていた。娯楽や福祉制度も発達し、決して住みにくい国ではなかったようだ」p70
「外国人で、ナチスから勲章をもらった有名人には、アメリカ最大の自動車メーカーの創業者フォードがいる。彼は熱烈なナチス贔屓だったのである」p76
「ドイツは、かのマルクスを生んだ国であり、労働運動、社会主義運動のメッカでもあるのだ」p80
「ナチスの時代、労働者に不満が起きなかったのは、労使の調停の妙もあるが、大もとの労働基準を大幅に改善した、ということが大きな理由である。ナチスは世界に先駆けて8時間労働を法的に実施している。休暇も大幅に増えている」p85
「ポルシェは、国の全面支援でフォルクス・ワーゲン社を設立して、画期的な大衆車の政策にあたった」p103
「「2児の父親が出征した場合の残された家族への支援金」アメリカ:(夫の収入の)36%、イギリス:38%、ドイツ:75〜78%」p122
「第一次大戦が終わってから、ヒトラー政権が誕生する1933年までのドイツは「ハイパーインフレ」「大不況」「財政破綻」「通貨危機」「大量失業」など資本主義経済で起こりうるありとあらゆる問題を経験していた」p128
「ヒトラー政権の誕生は、選挙と法律による合法的な手続きによるものなのである」p146
「世界大恐慌、通貨危機のような緊急時に、政策決定に手間取っていれば、有効な景気対策など施せるわけがない。ナチスの場合、国家全体の利益を考えた政策を打ち出し、それを迅速に実行できた。それが、失業率の急速な改善につながったのである」p152
「(レンテンマルク)レンテンマルクというのは、ドイツの土地によって保証されるという珍しいタイプの通貨だった。つまり土地を担保にして発行された通貨ということである」p166

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感想投稿日 : 2021年5月18日
読了日 : 2021年5月18日
本棚登録日 : 2021年5月18日

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