これはいい本。読むタイミング的にもばっちりはまって、「ああ、あの人に読んでほしいなぁ」という顔がいくつも浮かんだ。
結局のところ「自分で物をつくる覚悟を持った人」の言葉が一番響く。観念をいくらこねくり回したところで、論理やアイデアだけではどこまでいっても空疎だ。
多聞さん、京都在住らしい。一度会ってみたい。ひとつひとつの言葉が滋味ぶかい。
「ぼくは見た目のデザインよりも、紙選びこそが想定の醍醐味だと思っている。眼が文章や造形にふれるまえに、からだは紙に触っているのだから」p.172
「印刷所に行くときは緊張する。日頃お世話になっている職人さんに会えるのは嬉しいが、「あんただね、いつも面倒くさい指示を出してくる人は」と怒られることが多い。ぼくが希望したおかしな紙の組み合わせで、印刷機を目づまりさせたり、ありえないインクの組み合わせで、職人さんを悩ませたりしているそうだ。
印刷機の横にうず高く積みあげられたインクの缶に、ぼくがつくった校正紙の切れはしが張りついているのを見つけ泣きそうにあったことがある。つぎ刷るときにインクの配合が分かるように、インクと刷り見本をセットにして保存しているのだ。
デザイナーがどんなに偉そうなことを言っていても、最終的に本のかたちに仕立てあげるのは、現場の職人だ。裏方に徹して、本の奥付にも名前は出てこないが、彼らなしには一冊の本も作れない。紙メーカーの工場職員から、配送業者にいたるまで、本づくりは彼らのおかげで成り立っている」p.172
「どんな町であろうと、そこに人が暮らしているかぎり、地域誌はつくれるんです。たとえ無人島だとしても、ぼくはつくる」p.248
「場所が変わると本づくりも変わる。関西に暮らす著者やデザイナー、印刷所といっしょにつくりたい。そうしたときに東京一辺倒ではつくれない新しい本が生まれると思うんです」p.252
「たとえ日本で一〇〇人しか必要としない本だったとしても、ちゃんとその一〇〇人に届けば、出版社としてやっていける道があるはずだ。著者、編集者、装丁家、出版社、印刷所、書店……一冊の本にかかわる人たちが、歩いて会えるような距離で仕事をして、大儲けはできなくとも、なんとか暮らしていける。そんなサイクルの中で本をつくっていきたい」p.261
- 感想投稿日 : 2016年3月10日
- 読了日 : 2016年3月10日
- 本棚登録日 : 2016年3月10日
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