内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実 改正公益通報者保護法で何が変わるのか

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  • 朝日新聞出版 (2022年4月20日発売)
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【第1章】密告ではなく公益通報に
内部告発者保護の制度とその進化
(1) 米国の内部告発者保護法制はパッチワーク
■米労働省職業安全衛生局(OSHA)の役割 ■内部告発者がヒーローに ■チャレンジャー事故の衝撃 ■「ザ・ホイッスルブロワーズ」――2002年の表紙に3女性 ■日本企業を標的とする告発も

(2) 英国の公益開示法にならった日本の立法
■内部告発を3分類した英国の公益開示法 ■小泉政権下で立法検討が本格化 ■独占禁止法にリニエンシー ■韓国の公益申告者保護法 ■内部告発の有用性の認識の広がり

(3) 告発者保護の背景にある企業不祥事の潮流
■だれのために働くのか――忠誠の概念が多様化 ■コンプライアンスとは――社会規範意識の高まり ■水準の高まる「説明責任」 ■不正そのものより不正への対応が大事 ■リスクをめぐる開示と議論の必要 ■社会の役割分担の専門分化、複雑化という背景 ■ガバナンスという視点の登場 ■「内部」への告発と「外部」への告発の境目

(4) 欧州大陸では2013年以降に法制化、EUが指令
■ナチス・ドイツの密告社会 ■自浄の努力との連関 ■大量の電子ファイルが証拠資料に ■欧州カ国が2013年に法制 ■EU公益通報者保護指令の内容

【第2章】オリンパスで相次ぐ内部告発
失敗の教訓に学ぶ
(1) 内部通報者への不法な仕打ち
■コンプライアンス室への電話 ■客先と上司の間で板挟み ■会社側の主張した事実関係 ■コンプライアンス室は何を間違ったか ■チームリーダーから部長付への異動 ■浜田さん全面勝訴の高裁判

(2) 巨額不正経理を英国人社長が追及
■ジャーナリストに資料を提供 ■英国人社長による社内の追及 ■前社長による英国経済紙への内部告 ■「機密情報開示に憤り」と新社長 ■「重大な非行」理由に報酬減額 ■「だれも本当のことを言わなくなった」

(3) もの言えない風土に長年の不正
■バブル期に始まった損失隠し ■経営陣が自白に追い込まれた舞台裏 ■箝口令「事件の話はタ ブー」 ■法廷で語られた山田元副社長の悔悟 ■最高裁で会社敗訴が確定した後も不当処遇継続 ■経営陣交代後も変われないオリンパス

(4) 医師への賄賂と感染報告遅れ
■医師や病院にキックバック、賄賂 ■最高コンプライアンス責任者の内部告発 ■内視鏡の院内感染の報 告を怠った罪 ■少なくとも190人余が院内感染 ■顧客や当局に「積極的には」知らせず

(5) 中国・深圳での不明朗な支払い
■「バックが強大」なコンサルに4億6千万円 ■法務本部長の異論「誰に怨まれてもやりきる他ない」オリンパス社員から渡された秘密報告書 ■「ガバナンス上の問題があった」 ■異論唱えた法務本部長を左遷 ■「『悪い意味でのサラリーマン根性』は真っ平ごめんなので」 ■社内調査「著しく不合理とまでは認め

られない」 (6) オリンパス不祥事で法改正論議
■浜田さんと会社の和解 ■法改正への貢献で人権賞 ■史上最高位の内部告発者「想定外」 内部告発への報奨金の制度化は? ■元法務本部長の魂の叫び ■内部通報者への報復がもたらす「内部告発し放題」

【第3章】内部通報、事業者と従業員の現実
なぜ形骸化するのか
(1) 財務省、文書改ざん無反省のガバナンス劣等生
■近畿財務局に「改正」届かず ■ずさん調査で問題素通り ■教訓に学ばないまま公文書管理専門の通報窓口 ■改正法に残った不備

(2) 「イオン行動規範110番」への内部通報が人事部長に筒抜け
■サービス残業を内部通報 ■懲戒委員会で「内部通報した人物」 ■残業手当支払いで特損12億円 ■公開法廷に内部通報の実名記録 ■内部通報への対応でイオンを提訴 ■イオンの対応の問題点とその教訓

(3) 内部通報制度への期待と失望
■内部通報制度の普及 ■東芝社内から日経ビジネスに内部告発続々 ■化血研、血液製剤を不正製造 ■東洋ゴムでは「内部通報のリスク」を検討 ■再三の内部通報への対応に失敗した日本公庫 ■住江織物、米国子会社の元従業員から会計事務所に通報 ■長野計器子会社、役員の交代後に内部通報相次ぐ ■内部通報制度ガイドラインの改正

【第4章】組織の外への内部告発
忠実義務との葛藤で判例も変化
(1) テレビ東京への内部告発で発覚、レオパレス21の施工不備
■社長インタビューをきっかけに ■「会社を変えたい、でも…」 ■記者会見を突如開いたレオパレス ■外部調査委「社長に進言しにくい雰囲気」を指摘 ■国交省の検討会「工事監理者通報窓口」を提案 ■阿部ディレクター「信頼を得ないと託されない」 ■施工不備は3万棟以上に

(2) 郵政一家「第4の事業」と不適正営業
■アポなしで新聞社に一人 ■組織のために「集票力」「政治力」 ■尾行を心配し、手紙は偽名 ■別の局長経験者から新たな内部告発 ■さまざまな情報源 ■近畿郵政局長に有罪判決 ■消費者庁ヒアリングで ■かんぽ生命の違法営業 ■内部通報者と疑われた人への「報復」を罪に問う初の事例

(3) 内部告発をめぐって裁判例は進化してきた
■富里病院事件――行政機関への訴えは正当だが… ■千代田生命事件――元常務に2億5千万円賠償を命じる異様な判決 …… ■吉田病院事件――「背信」とされた住民へのビラ配布 ■三和銀行戒告処分事件――「労働条件改善目的」に正当性 ■群英学園事件――「経営への影響考え、内部手順を」 ■宮崎信金事件――保護された国会議員秘書への告発 ■いずみ市民生協事件――特定多数への内部告発を正当化 ■生駒市衛生社事件――報道機関への告発を正面から認める判決 ■トナミ運輸事件――提訴をきっかけに「内部告発」が流行語大賞に ■司法書士事務所事件――証拠書類持ち出しを公益通報「付随」行為として保護 ■徳島県職員事件――公益通報後の係長昇進見送りに慰謝料命令 ■神社本庁事件――「公益通報」該当を認めて救済 ■法制定を境に告発者有利に

(4) イトマン事件「匿名の投書」、住友銀行幹部と日経記者
■記者と銀行中枢幹部 ■大蔵省銀行局長あての投書を書いたのはだれか ■「そしたらこの記事は潰されるよ」 ■告発や報道で質の高い文書は必須

(5) いじめ自殺の証拠書類隠蔽を遺族に知らせた3等海佐
■海自護衛艦乗組員の自殺

(6) 内部資料持ち出しの免責を消費者庁の検討会で議論
■判例ではすでに保護する法解釈

【第5章】改正公益通報者保護法、詳細解説
事業者に何を義務づけているか
(1) 改正の検討に10年の歳月
■諸外国に後れをとってしまった日本 ■施行5年時の議論では結論先送り ■内部告発経験者を交えて議論 ■自民から共産まで全会一致で改正法可決 ■施行に向けて指針を策定、その解説も公表

(2) 民事ルールとしての公益通報者保護法
■国家ではなく国民の利益の保護が目的 ■不正の目的でなく ■だれが公益通報するのか ■法の保護の効果 ■なにを公益通報するのか ■だれに公益通報するのか ■事業者内部への公益通報(1号通報)■規制権限を持つ行政機関への公益通報(2号通報) ■報道機関など広い外部に対する通報(3号通報) ■「風評被害」論 ■コンプライアンスの後押しとして ■役員も保護対象に ■「反対解釈」を許さず ■あらゆる不利益扱いの禁止 ■守秘義務との関係 ■他の特別法との関係

(3) 事業者が課される義務と行政の権限
■1項義務と2項義務 ■内部通報対応体制の整備義務 ■公益通報者保護体制の整備義務 ■体制整備義務違反への行政措置 ■改正指針で事業者の現場は実際どうなるか? ■「従事者」の守秘義務を罰則つきで導入 ■内部告発を受け取る側としての行政の対応 ■不利益取り扱いへの行政措置の制度化は見送り ■今後の検討

【付録】■改正公益通報者保護法 ■公益通報者保護法に基づく事業者向け指針

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2022.05
感想投稿日 : 2022年5月13日
読了日 : 2022年5月11日
本棚登録日 : 2022年5月11日

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