実力も運のうち 能力主義は正義か?

制作 : 本田由紀 
  • 早川書房 (2021年4月14日発売)
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原題は、The tyranny of merit - What’s become of the common good (能力専制 - 共通善はどうなるのか)
これの邦題を、『実力も運のうち- 能力主義は正義か?』とするセンスがまず素晴らしい。極端な話、読まなくても主題は通じてしまう。

当時ニュースにもなった、2019年度の東大入学式での上野千鶴子教授の祝辞の中の、以下のくだりと似た趣旨が320頁にわたってみっしり書いてある。

引用始
あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと...たちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。

あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。女性学を生んだのはフェミニズムという女性運動ですが、フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。
引用終


印象に残ったフレーズ(サンデル氏ではなく、ナイト氏の言葉)

P207
金儲けがうまいことは、功績の尺度でもなければ貢献の価値の尺度でもない。すべての成功者が本当に言えるのは次のことだ。類いまれな天分や狡猾さ、タイミングや才能、幸運、勇気、断固たる決意といったものの不可思議な絡まり合いを通じて、いかなるときも消費者の需要を形づくる欲求や願望の寄せ集めに ーそれがいかに深刻なものであれ馬鹿げたものであれー  どうにかして効率的に応えてきた、と。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年9月19日
読了日 : 2021年9月18日
本棚登録日 : 2021年9月11日

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