イスラームの歴史 - 1400年の軌跡 (中公新書 2453)

  • 中央公論新社 (2017年9月20日発売)
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 2001年9月11日に同時多発テロが起こったとき、アメリカ国内でムスリムたちへの激しい差別や暴力が蔓延った。イスラム教は信条のためならテロをも厭わない危険な宗教と見做され、中東風の服装をした人が街で襲われたり、飛行機搭乗を拒否されたりした。当時のジョージ・W・ブッシュはそれを危険と判断し、テロ行為は、本来平和的なイスラム教の教えに反するものだと声明を発表した。また自らモスクを訪れることもした。実際、テロを起こした集団は、テロ直前にイスラムの教えでは禁止されている酒を飲み、クラブで豪遊していたという。敬虔なイスラム教徒であれば絶対にしないような行為をした彼らが「イスラム原理主義者」と呼ばれるのは明らかに間違っている。そういった正しい情報が拡散されると、アメリカ国民たちの中にもイスラム教について「知る」ための行為が広がっていったという。

 この本には、西暦600年ごろにイスラム教を作ったとされるムハンマドの出自から、ムスリム同士の内乱期、西欧による強引な近代化と植民地化、現代のイスラム国家が抱える課題まで、史実に則って幅広く書かれている。イスラム教の教えは本来、争いを嫌い、神のもとで全ての人間が平和的な暮らしを送れるよう導くものだ。同時多発テロのようにあまりにも大きな衝撃を与える出来事が起こるとそれが全てのような気がして、身近なところに原因を見出そうとしてしまうけれど、そのような短絡的な思考は危険だと改めて感じた。クルアーン(コーラン)の中にはいかなる暴力を正当化するような記述もない。

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感想投稿日 : 2023年3月8日
読了日 : 2023年3月8日
本棚登録日 : 2023年2月28日

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