実力も運のうち 能力主義は正義か?

制作 : 本田由紀 
  • 早川書房 (2021年4月14日発売)
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感想 : 196
5

初めてのサンデル教授の本。とても面白く、モヤとしてたことがよく理解できました。じっくり読んでいます。
とくに、トランプ氏が大統領選挙に勝った2016年。忘れられていた白人レッドネック、ラストベルトエリア。。に支持された。という分析がたくさんありました。なんとなくわかった気になってました。
ただ、ヒラリーがハイブロウすぎてソッポをむかれた、その理由がちょっとよくわかりませんでした。
この本では、それが能力主義(機会の平等)が、すでに上手く出世できた人たちの、できなかった人たちへの侮蔑につながり、さらに逆転不可能(固定)されてるからだと説明されており、とてもよく理解できました。
大学卒でない白人の2/3がトランプに投票した、大学卒以上の70%はヒラリーに投票した。p153近辺「所得よりも学位が投票を分断している」
分断・トランプの登場の理由を「学位偏重主義」においているのが、この本のテーマです。
米国民主党・中道左派が、「機会の平等」の解決策として「教育」を掲げてきたことも、データをもとに語られています。日本でもよく識者・経営者が「教育」を語りますが、その源流をみた気がします。
結局、学位と出世が既得権益になる。出世できた人は、機会平等下の「自助」=努力の証と、自らを誇る。そこまでなら、いいのですが。。やってはいけないことに、そこに到達しない人たちを侮蔑する。日本でもたまに噴出する生活保護受ける資格ない、潰れる店は努力不足といった自己責任問題がありますが、それと同根でしょうか。
サンデルは、そうした学位・出世した機会平等下のエリートたちに、「あんたがいい大学入れて出世できたのは、親が金持ちとか最初からゲタはいてたからでしょ」ということを主張します。
だから、「大学入れず、出世できなかった人を馬鹿にしていいはずはないだろ!」ってことを述べたかったんだと思います。
p152近辺に、労働者の味方だった米国民主党、英国労働党が、どんどん知識階級の党になり、労働者の票を失った結果、ポピュリズムとして愛国・右派に票が流れている。「民主党・知的エリートよ!そんなんで世の中いいの?」という分析です。
日本に置き換えたらどうなのか?考えてみたくなる時に、とても助けになるフレームワークだと思いました。
上述した日本の「生活保護」の問題も、数年前某芸人さんが未払い問題で叩かれました。しかし、数週間前ユーチューバー(メンタリスト)さんが叩かれた時は、まさにサンデルさんが言わんとしてた、成功者が上から目線で下を叩いてはアカンだろ、という風潮で、下を叩いてたユーチューバーが世間からバッシングされました。これってサンデルさんの主張の先を行ってるのか、それともトランプ現象が遅れて入って来てるのか。。その辺も考えてみたくなりました。
それと、昨今メディアを賑わす「東大」ブランド話。。日本ならではの展開、進行、分析しがいがありそうです。

どのページだったかあのオバマ大統領も、任命したスタッフの大部分はアイビーりーグ出身。ということも書いてありました。あのオバマさんも、この能力主義に囚われているのか、、、というのは驚きです。そしてバイデンさん。数十年ぶりのアイビーリーグ以外の大統領らしいですが、これは、サンデル視点では米国社会がバランスを取ってると言えるのか。。今後どうなるのか?諸々考えが広がる本でした。ということは、とてもいい本であると思います。

ちなみに、原題にもある"Merit" 。語源を引くと、こんな風に出てきます。本の中では「功績」と訳しています。日本語の「メリット」とは違いますし、的確な訳が難しいですね。自分の努力を世間で認めてくれた、その証みたいな感じでしょうか。勲章・認定証・資格。。。
"The noun is derived from Middle English merit, merite (“quality of person’s character or conduct deserving of reward or punishment; such reward or punishment; excellence, worthiness; benefit; right to be rewarded for spiritual service; retribution at doomsday; virtue through which Jesus Christ brings about salvation; virtue possessed by a holy person; power of a pagan deity”)"

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年8月30日
読了日 : 2021年8月30日
本棚登録日 : 2021年8月30日

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