グレッグ・ベア氏の作品を読むのは初めてでしたが
あまりに重く濃密で凄まじい、恐ろしい中短編集でした
2作とも、もう30年以上も前の作品だとは信じられない
『鏖戦』は遠い未来の宇宙戦争の話
時折現れる古文調の文体が超絶格好いいし、当て字の漢字による固有名詞が頻発するのにもわくわくする
過酷な戦争の描写があるのに、どこか美しく儚い情景が浮かぶし、とても女性的な印象をうける物語でもあった
難解だけど流麗な文章、語り手や視点が入れ替わる幻惑されるような物語、そして訪れた結末の無常さ…
どこか日本の古典文学に通じる印象を感じました
それにしてもほんとに、翻訳の文体がめちゃくちゃ格好いいし難解です
これを翻訳された酒井昭伸氏の他の訳書もぜひ読んでみたい
『凍月』は『鏖戦』での世界よりは、現代に近いかもしれない、月に移住して数世代が過ぎた、月生まれの住人の政治や陰謀、科学研究の話
高度な科学実験や、人体の冷凍保存技術、新興宗教とそれに絡む政治、などの様々な要素が絡み合い、どんどん展開するストーリーがずっと先が読めず、斬新でめちゃくちゃ面白い
語り手の主人公と、その姉、その夫の関係性が何とも魅力的でしたし、語り手の前に障害として立ちはだかる人物の描写も、あるいは教え諭し利用もするし、でも導いてもやる師匠役の人も、作中に名前と音声しか出てこないけど重要なキーパーソンとなる新興宗教の教祖の逸話も、どれもキャラ立ちが秀逸で面白い
何よりも、周囲の人物と比べどこか印象が薄めであった語り手が、どんどん打ちのめされて変わってゆくさまの鮮やかさが楽しい作品でした
こちらの中編の訳者さんは『火星の人』や『プロジェクト・ヘイル・メアリー』も手がけている小野田和子氏、さすがです
それにしてもこの2作が、同じ著者さんの手による物だとは恐ろしい
でっかい引き出しが無数にあるグレッグ・ベア氏なんですね
- 感想投稿日 : 2024年1月10日
- 読了日 : 2024年1月10日
- 本棚登録日 : 2024年1月10日
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