サイエンスを扱う新書がブルーバックスの独擅場でなくなって久しいが、久々に「これはブルーバックスにしか出来ない」というのがまさにこれ。各巻400ページ超え、フルカラーで1,500円。このフォーマット、原著にもバックポートして欲しいぐらいだ。
本書「アメリカ版 大学生物学の教科書」は、MITで実際に教科書として使われている"LIFE:the Science of Biology"を、章ごとに再構成して新書化したもの。
米国で学んだ体験があるものが口を揃えて言うのは、「日本は教科書が薄すぎる」というもの。確かにその通りで、米国では高校でもiPadぐらいのサイズ、MacBook 13"ぐらいの重さの教科書を使っている。余談であるが、米国系PCベンダーがサブノートに不熱心だった一番の理由は、この教科書体験の違いにあるのではないかと私はにらんでいる。
「薄すぎる」の次には「だから駄目なのだ」という台詞がたいてい続くのであるが、あの重量と価格にずっと涙目で、新品の教科書なんぞついぞ買わなかった私としてはそれには首肯しかねる。実際問題、あのtextbooksを隅から隅まで叩き込むという使い方はしないのである。教える側が「こことこことここ」という感じで指定して、好きなところをつまみ食いというのが実際の利用法なので、その点に関して言えば米国の教科書利用というのはずいぶんな無駄を利用者に強いていると言える。
両者のいいところどりは出来ないだろうか?
本書のありようは、それに対する一つの解答に思える。中身を薄めずに、小型化、分冊化するのだ。これであれば持ち運びも楽で、「教科書を追うのにてんてこまいで講義の内容を追ってる暇がない」という本末転倒な状況を避けることもできる。また米国--少なくとも私がいたUCB--では、期末試験も open book、つまり教科書持ち込みOKなので、学生は歓喜するだろう。なにしろ現地の教科書は巨大すぎて参照するには手間暇がかかりすぎるので、実際のところはもっと軽便な参考書を別途入手するか、自分でメモを作って持ち込む学生がほとんどなのだ。
小型、軽量、安価になることのもう一つのメリットは、大学生でなくても手が届くということである。実際米国の教科書というのは図版や解説も充実していて、「単なる教科書」にはあまりにもったいないのだ。本書はその代表格中の代表格で、中学生が見ても存分に楽しめる。
CS(Computer Science)の教科書もこんな感じになればなあ。SICPとか。
教科書は、軽く、安く、そして楽しくあるべきだ。日本のそれはつまらなすぎ、米国のそれは重すぎて高すぎる。ブルーバックスがそれをやってくれた。本読みにとって実に幸せな国である。20+年前の自分に本書を送って上げたいよ。
- 感想投稿日 : 2010年10月29日
- 本棚登録日 : 2010年10月29日
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