世界の陰謀論を読み解く――ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2012年2月17日発売)
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感想 : 37
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辻隆太朗(1978年~)氏は、京都府出身、北大文学部卒業、北大大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学の宗教学者。
本書は2012年出版で、私は今般たまたま本屋の新書棚で見つけて購入したのだが、それは、昨年の米国大統領選挙の際に、トランプ氏には何故あれほどの盲目的な支持者がいるのかという疑問を持ち、これまでに、森本あんり『反知性主義』、渡辺靖『白人ナショナリズム』、水島治郎『ポピュリズムとは何か』等を読んできて、更に、支持者の中には陰謀論を信じる人々も多数いたことから、陰謀論について考察した(個別事例に留まらない)「陰謀論」論・「陰謀論」学とでも言える本を読みたいと思っていたことによる。
本書は、前半で、日本における陰謀論の実例(オウム真理教、東日本大震災等)、ユダヤ陰謀論、フリーメーソン陰謀論、イルミナティ陰謀論、新世界秩序陰謀論を解説し、後半で、現代の陰謀論の一大中心地である米国で陰謀論が受け入れられる背景、陰謀論を支える論理、人々が陰謀論を求める理由を考察している。
(私の関心の中心である)新世界秩序陰謀論以降の論旨は概ね以下である。
◆「新世界秩序陰謀論」とは、グローバル化した現代において、世界中のあらゆる出来事に陰謀の存在を見出し、それら全てが「統一世界政府の樹立」という目標のもとに統一された陰謀のネットワークを形成していると見做す陰謀論。その本質は、少数エリートによる全人類の管理・奴隷化であり、目指すのは、オルダス・ハクスリーの『すばらしき新世界』やジョージ・オーウェルの『一九八四年』に描かれた世界である。二度の世界大戦、地域紛争、社会主義革命からソ連崩壊、国際テロ、エイズなどの伝染病、メディアや娯楽産業など全てが、その陰謀のコントロールによるものである。
◆アメリカの陰謀論のベースにあるのは、主に政治的・道徳的保守主義とキリスト教原理主義である。前者によれば、連邦政府の規制・課税・社会政策や対外戦争・グローバリゼーション・国際協調は、いずれも、個人や国家の自由と独立に不当に干渉するものであり、後者によれば、社会主義的運動・社会福祉政策・多様な価値観の共存や融和・マイノリティ尊重など、およそリベラルと言われるものは、キリスト教的秩序に反する行為である。そして、それらは全て、唯一普遍的な「正しい」ことに反する「間違った」こととされ、その原因を邪悪な陰謀に求めるのである。
◆全ての陰謀論の根底には、自分の考える「世界の本来の姿」と「世界の現状」との乖離から来る「世界は間違っている」という認識があるが、陰謀論者はそれを受容できず、「世界の現状」は何者かにより意図的に操作されたもの(=陰謀)と考える。それは、明確で単純な因果関係に限らない現実世界を、わかり易い虚構に置き換えたいという心理にもよる。陰謀論は、結論ありきで、それに合うように各パーツを解釈するため、如何様にでも組み立てられ、また、「事実は隠されている」ことが前提であるため、正当な反証も受け付けない。

読了して、こうした素地のある米国において、トランプのような人物が陰謀論者に支持される理由はよくわかったが(もちろん、陰謀論者と異なるカテゴリーの支持層もいるが)、読後感はスッキリしたものではなかった。何故人間はこんなに愚かなのか。。。政治思想的に保守なのかリベラルなのかは、それこそ本人の自由で尊重されるべきものであろうが、自らの思想を正当化するために、陰謀論やフェイクニュースが蔓延し、暴動や炎上が起こる世の中は嘆かわしい限りである。
著者が最後に語っているように、「自分の判断が正しいかどうかをつねに問う」ことが大事であろう。
(2021年10月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年10月8日
読了日 : 2021年10月8日
本棚登録日 : 2021年10月2日

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