世界最悪の旅: スコット南極探検隊 (中公文庫 B 9-4 BIBLIO)

  • 中央公論新社 (2002年12月1日発売)
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感想 : 25
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本書は、1912年1月に、ノルウェーのアムンセン隊に遅れること僅か20余日で南極点に達しながら、帰路において全員が死亡した英国・スコット隊について、若くして同隊に動物学者として加わったチェリー・ガラードがまとめたものである。
スコット隊の探検については他にも何冊もの本が出ているが、本書『The Worst Journey in the World, Antarctic, 1910~1913』は、ガラードが10年をかけて、十分な反省と多くの批判を聞き、関係者からの資料と助言を得た上で執筆しており、それ故に、余裕をもって客観的に探検の経験を伝えながら、なお手に取るような臨場感をもっている点において、類書と大きく異なり、その価値を高めていると言われている。本書には、遺体の枕元から発見されたスコット隊長の日記からの抜き書きも随所に含まれている。
本書に綴られた南極の自然の凄まじさと、そこで自らの信念に従いつつも、時折漏れる悲壮感は、我々一般人の想像を遥かに越え、まさに「世界最悪の旅」と言い得るものである。
それにしても、探検・冒険とは一体何なのだろうか? 本書の著者はスコット隊に参加したガラードであるから、アムンセン隊のことを、「真直ぐに極にむかい、一番にそこにいき、一人の生命をもうしなうことなく、自分はもとより、その隊員にも極地探検の普通の仕事以上にとくに大きな労苦を課することなしに帰ってきた。これ以上に事務的な探検は想像できないのである」とこき下ろし、スコット隊を、「わかりきった数々の危険にむかい、超人的な忍耐力をもって非凡の業をなし、不朽の名声をえ、ありがたい教会の御説教にたたえられ銅像とまでなったが、しかも極への到達はただおそるべき余計な旅行を結果することとなり、その上、有為の人を氷上に空しく死なせるにいたったのである。・・・その目的は多岐にわたっていた。われわれはあらゆる種類のことに知的関心をもち興味を抱いていた。われわれは普通の探検隊の二倍あるいは三倍の仕事をしたのである」と書くのもむべなるかなであるが、スコットとアムンセンの南極点到達から1世紀を経た今、その意味を改めて問う時なのかも知れない。
本書のあとがきを書いている石川直樹や『空白の五マイル』の角幡唯介が指摘するまでもなく、先人達によるこれまでの数々の挑戦に、科学技術の発達がドライブをかけて、現代においては、万人が納得できるような価値をもつ冒険的な対象は地球からなくなってしまった。とすると、冒険・探検とは無くなってしまうのか。。。?
ガラードは最後に「探検とは知的情熱の肉体的表現である」と語っているのだが、この言葉にそのヒントがあるような気がする。つまり、本当の冒険・探検(の意味)とは、対象としている場所や空間に存在するのではなく、その行為を行っている個人の中に存在するのではないかと思うのだ。
冒険・探検とは何か?を考えさせてくれる、貴重な記録である。
(2019年6月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2019年6月22日
読了日 : 2019年6月22日
本棚登録日 : 2018年12月4日

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