スピノザ よく生きるための哲学

  • ポプラ社 (2019年12月12日発売)
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著者のフレデリック・ルノワール(1962年~)氏は、マダガスカル生まれのフランス人で、長年に亘り仏「ル・モンド」紙の隔月刊誌「宗教の世界」の編集長を務め、哲学をはじめ、宗教史、比較宗教学、社会学、小説、対談集、ルポルタージュに至る多彩な分野で活躍し、今日、フランスで最も注目される作家のひとり。
本書は、2017年にフランスで刊行された『LE MIRACLE SPINOZA(奇蹟のスピノザ)』の全訳で、2019年12月に発行された。
スピノザは、スペイン系ユダヤ人を先祖にもつ、17世紀のオランダの哲学者である。哲学史的は、デカルト、ライプニッツと並ぶ17世紀近世合理主義哲学者として知られ、カント、シェリング、ヘーゲルらドイツ観念論やマルクス、更にその後の大陸哲学系現代思想へ強大な影響を与えた。その哲学体系は代表的な汎神論と考えられており、後世の無神論や唯物論に強い影響を及ぼしたが、生前のスピノザ自身も、無神論者のレッテルを貼られ異端視されたという。
私はこれまでも、「現実世界はすべて理性によって把握でき、この世界には説明がつかないもの、道理に合わないものは一つもない」と主張し、アインシュタインも傾倒したというスピノザの思想に強い関心を持っていたのだが、本屋で『エチカ』を開いてはため息をし、講談社現代新書の『スピノザの世界』すら読み通すことができなかった。しかし、「この本を世に出した著者の意図は、これまで哲学に縁がなく、スピノザのことをよく知らない人々にも理解してもらうこと、そのためにスピノザの思想の本質的な部分だけをかみ砕いて説明することである。そして、多くのことに縛られて息苦しさを感じている人、人生に虚無感や不満を抱いている人、あるいはもっと良い人生を送りたいのにどうしたらいいかわからない人に、これを読むことで癒しや勇気、あるいは生きる力やヒントを見つけ出してもらうことである」という本書は、とても読み易かった。
本書では、第Ⅰ部「政治と宗教に革命をもたらした人」で、スピノザの人生と、字義通りの聖書解釈や迷信や選民思想を鋭く批判したスピノザの真意や根本思想について、スピノザの著書『神学・政治論』に基づいて語られ、第Ⅱ部「叡智を生きた人」で、代表作『エチカ』の主要部分である、神観(神即自然)、人間観(実態一元論)、感情論(三つの基本感情である欲望と喜びと悲しみ)、善悪を超えた倫理観、神と人間の関係が、具体例とともに平易に解説されている。
本書には、「ある感情は、それより強い感情によらなければ、逆らうことも消し去ることもできない」(『エチカ』より)ほか、スピノザ自身の著書からの引用や、著者の記述の中に、数多くの印象に残るフレーズがあるが、まとめると、訳者あとがきにある以下のようになるのであろう。「自分にとって良いものを見分け、自分の生命力や活動力能、喜びや幸福感を増大させられるように生きることが、スピノザの説いた良い生き方であり、自然に生じる美徳でもある。そのためには外的な諸要因に振り回されず、自分の情念や不適切な観念に支配されず、自分と世界をありのままに理解して受け入れ、理性の力で欲望を適切な方向に向かわせることが肝要である。・・・人間は生来的に自分の存在に固執し、生命力や活動力能を増大させ、より完全になろうとしている。そしてそれができた時に、深い喜びを感じるようにできている。この生命の法則に逆らって生きれば、おのずと喜びから遠ざかるようになっている。そうであるなら、それに気づいた時からその方向を目指して、一歩でも二歩でも進んでいけばいい」
スピノザが、難解といわれる『エチカ』に込めた「良い生き方」が、わかりやすく説かれた良書である。
(2020年2月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年2月15日
読了日 : 2020年2月15日
本棚登録日 : 2020年1月2日

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