「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム

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  • TAC出版 (2019年7月11日発売)
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安倍戦争法案反対デモを冷ややかにみていたときに書き始めたと後書きにある。著者はそういう立ち位置から世界史(というよりほぼ日本近代史)を書いている。

 猿人から話を書きはじめてギリシャにいったり、十字軍にいったり。このくだりはいるのか?と思いながら読んでいたけど、第7章の幕末日本の万国公報あたりから面白くなってくる。

 不平等条約を改正するために、幕末の日本は国際法を遵守する。未開の野蛮な国と思われないようにと、他の国は植民地支配のためには、そんなもの都合よく解釈していた時代から。それはもう優等生だった。例えば時代は下って第一次世界大戦時の坂東俘虜収容所でのドイツ人捕虜の人道的な扱いは称賛され、国際社会の信頼を勝ち得ていく。国際連盟の常任理事国入りも果たす。
 しかし、一等国の仲間入りしても、その後の軍縮会議の時代では、アジアの小国日本は馬鹿にされる。都合よく保有する戦力を削られる。人種差別が当たり前の時代だから、これはまあ、しょうがない。
 

 第二次大戦前の世界は地政学的にはソ連をどう封じ込めるかで回っていた。ドイツもイギリスも、アメリカも日本も共産主義革命が怖かった。

 日本が手を結んだのがドイツ。勢いに乗っちゃった感、強し。大本営は欧州に網を張っていた優秀な諜報員が仕入れた情報を活用しなかった。六千人の命のビザでおなじみの杉原千畝の情報だって無視しちゃったから、スターリンは戦力を二方面に割く愚を回避でき、欧州戦線にぶちこむことができた。ドイツと組むなら組むで、日本も歩調を合わせればいいのに。一方ではアメリカとの交渉も進めているから、まさに二方面外交。担当する閣僚ごとにバラバラに動くから信用されない。あなたと手を組みたいと言っている裏で敵と手を結んでいるんだもの。
 でも当時は各国も狐と狸で変わりないから、それはいいとして、問題は国としてのどっちにいこうとしているのか決めないまま、あっちにふらふら、こっちにふらふらしているところだ。騙したり、時間稼ぎのためじゃなくて、そういうのが当たり前の国に振り回されている。

 読む限りでは、アメリカとの交渉で満州国の承認までは、両国で折り合いが付けられるところまで話は進んだらしい。アメリカだって片やドイツ片や日本の二方面作戦をとる愚は避けたかった。大国だって避ける二方面作戦で日本は中国とアメリカを相手に戦おうっていうんだから、なんとも威勢いい。そんなことするのは、超が付くほどの大国か、よっぽどの阿呆だけだ。果たして日本はどっちだったのかということは置いといて、その後もまあまあの紆余曲折を経て、収拾つかずに真珠湾で開戦。アメリカも本音では国内景気拡大のために戦争したくてうずうずしてたから、しめしめとでも思っただろう。


 終戦工作ではスイスにおいて後に国務長官となるダレスとの交渉で、皇室存続を認めさせるところまで漕ぎつけた。アメリカは日本の共産化を望まなかったからだ。これがうまく運んでいたら、もしかしたら原爆もソ連参戦もなかったかも。しかし軍部内に巣食う親ソ連派はソ連による日本解放を望んだ。瀬島龍三などの赤のスパイがソ連による和平交渉を長引かせ、時期は逸した。
 参考文献として紹介されてる本を読んでないので、どこまで信ぴょう性があるのかわからないが、あんまりそういう視点から考えたことがなかったから、言われるまで気づかなかった。

 そして戦後。
 世にも稀な憲法九条が生まれる。

 侵略戦争の放棄をうたう憲法は世界中にある。日本が特殊なのは戦力を放棄したところ。

 吉田茂は朝鮮戦争でアメリカから再軍備を要請された。アメリカの戦争に巻き込まれたくなかった吉田は、憲法で日本は軍隊を持てないことになっているから、警察力を強化するとして警察予備隊を創設し、うまく切り抜けた。

 日本は平和憲法があったから戦争しなかったんじゃなくて、アメリカに守られていたから戦争しなかった。今後はアメリカが手を引く。日本はどうするか考えないといけない。ということで本書は結ばれる。

 そうなっても、非武装中立を叫ぶ人ってまだいるのかな?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年10月10日
読了日 : 2019年8月13日
本棚登録日 : 2019年8月13日

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