イラク戦争の爆発物処理班のミッションを追う映画です。
さすがというかなんというか…。
数々の賞の受賞に恥じない、すごく良くできた映画。
いっや~、衝撃的だった。
この映画のスゴイところは「緊張感」でしょう。
極度の緊張感・恐怖感から生まれる心理を「サスペンス」というのなら、この「ハート・ロッカー」のサスペンスは見事という他ない。
それは物語始まってすぐ訪れます。
冒頭15分、一触即発の爆発物処理シーン。
ここでは咳払い一つ許されない、呼吸するのさえ忘れてしまう。
「なんだよ、始まってすぐに、こんな緊張感なのかよ…」
あまいあまい。
まさかそんな緊張感が、この後2時間も続くんです!!
これにはさすがに参った。
こんな映画見たことない。
特に中盤の戦闘シーンは手に汗握る。
今までの映画だと、適当に銃をバンバン打ち合うだけ。
この映画の場合は、一発一発に命の駆け引きがある。
そればかりか、灼熱の太陽の中、体力と集中力を極限まで削られ、
長期戦の攻防の中で、命の奪い合いをする。
しかも「かけているモノ」は自分と仲間の命。
相当なプレッシャーだろう。
果たしてこれは映画なのか?
むしろ僕はドキュメンタリーを見ているものだと勘違いしていました。
もちろんこれはフィクションドラマです。
ただこの死と隣り合わせの、息詰まる緊張感の毎日を送る彼らの姿がここまで現実味を帯びているのは、
イラクで実際に爆発物処理班と行動を共にしたジャーナリスト、マーク・ポールの脚本によるものだからなのでしょう。
それゆえこの映画は、映画でありつつも現実です。
タイムリーな現実です。
ですが多くの人は、この現実を「直視」したことはなかったはずです。
ニュースの中で伝えられ、幾重にもフィルターがかけられることによって、「どこか遠くで起こっていることなのだろうなぁ」と思ってしまう。
もしくは平穏無事な毎日を過ごすことで、イラク戦争なんて「架空の話」だと思っていたのかもしれません。
だからこそ、この映画は衝撃的。
今まで直視できなかった私たちに、
「これが現実だ!目を向けろ!」と突き付けられているようだ。
以上が称賛の感想。
以下は若干の批判。
上記のとおり、映画の内容を非常にリアリスティックに描くことによって、
「これがイラク戦争の現実のすべてだ」と錯覚してしまう部分があります。
しかし実際は、「ハート・ロッカー」に「描かれていないイラク戦争」だってたくさんある。
アメリカの爆弾によって何万ものイラク人の命が奪われました。
アメリカ軍のイラク人に対する残虐な事件についてだってあまり知られていません。
またアメリカ人自身でさえも、戦争によって精神が壊れてしまう人が続出しています。
つまり、やはり「ハート・ロッカー」も「アメリカ側の視点」でしかないのです。
例えば、アメリカ軍兵士によるイラク人少女レイプ・殺人事件を題材にした「リダクテッド」という映画があります。
これはアメリカ人にはひどく不評で、FOXニュースから上映禁止を呼び掛けられたほどです。
やはり、彼らが「受け入れられる」映画は、彼らの希望もあるわけですから。
アカデミー賞を受賞したキャスリン・ビグローは壇上で、
「この賞を今もイラクに駐留する米軍兵士に捧げます」と言いました。
捧げるのは「テロと果敢に戦う正義の兵士」か。
「不条理な戦いに身を投じられ(といっても志願兵だけれども)、殺人を余儀なくされる兵士」にか。
確かに「映画」は「映画」です。
映画が世論に与える影響を考えると…なんて言い出すと、面白いドラマだって書けなくなる。
ただ「映画を見る人」は、もっと広い視野で映画を見て、感じて、判断しなければならない。
映画を「作る側の責任」以上に、「見る側の責任」も必要なのだと思います。
- 感想投稿日 : 2010年5月24日
- 読了日 : 2010年5月24日
- 本棚登録日 : 2010年5月24日
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