コロナ対策禍の国と自治体 ――災害行政の迷走と閉塞 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房 (2021年5月8日発売)
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感想 : 10

〇新書で「コロナ」を読む⑧

金井利之著『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、2021)

・分 野:「コロナ」×「行政」
・目 次:
 はじめに
 序 章 コロナ元年
 第1章 災害対策と自治体
 第2章 コロナ対策禍と自治体
 第3章 コロナ対策の閉塞
 終 章 コロナ三年
 あとがき

・総 評
 本書は、新型コロナウイルス感染症拡大がもたらした被害(=コロナ禍)ではなく、行政によるコロナ対策の迷走によって生じた被害(=コロナ対策禍)について、そのメカニズムを分析した本である。著者は東京大学の教授で、行政学を専門とする研究者である。
 なぜ、コロナ対策で行政(政府・自治体)は迷走してしまったのか――そのポイントは、以下の3点にまとめられる。

【POINT①】災害行政組織は必ず失敗する
 災害に対応する行政組織(災害行政組織)は、平常時の行政組織を災害時・非常時に転用する形で運用される。即ち、災害によって行政組織も一部の機能を損傷している中、従来の業務に加えて、災害対応を行わなければならない。従って、その対応能力には限界があり、必然的に災害行政組織は「失敗」する定めにある。そのため、行政側は、法令(法的権限がない)・財源(財源がない)・学知(専門家への責任転嫁)への逃避によって弁明を図るしかないと指摘する。

【POINT②】日本の「就労第一社会」の脆弱性
 しかし、支持率を気にする為政者(=行政の長)は、何らかの災害対応を行わなければならない。その典型例が「排除型」(=罹患者の隔離)と「鎮静型」(=自粛要請)の政策である。しかし、日本社会は、働かなければすぐに生活が困窮する「就労第一社会」であるため、その対応にも限界があった。仕事をしないでも生活できる社会のためには、強力な財源が必要だが、二〇〇〇年代から続く構造改革路線の結果、日本には「弱い財政」という遺産しかなく、コロナへの対処能力がないという閉塞に陥ったと指摘する。

【POINT③】次のパンデミックに備えて
 有効な災害対応を見出せない中、一部の為政者は「差別」や「他者非難」によって、被災者や被害者をスケープゴートにし、自らの正当性を弁明した。こうした「コロナ対策禍」を防ぐには、働かなくても生活や社会を数年間持続できるような、社会保障制度の「溜め」を――行政の「ムダ」とするのではなく――認めること、さらには、為政者が基本的には「無力であること」を自覚し、実務家が粛々と感染症対策にあたることができる環境を整えることが必要だと指摘する。

 非常に読み応えのある本であった。冒頭で「災害行政は必ず失敗する」と始まり、迷走する行政対応の中で「コロナ対策禍」を生み出す為政者を批判的に論じる一方で、最後は、理想的(=非現実的)な対応を行政に期待する私たち有権者の問題だと締めくくられる。振り返って、身につまされる読者もいるのではないだろうか。
 その一方で、本書は非常に難解な本である。全編を通して概念的な話が続き、筆者のクセのある筆致も相まって、読み通すのに非常に苦労した。もう少し読者に優しい本にできなかったのかとも思うが、頑張って読んでみる価値はある一冊である。
(1147字)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書で「コロナ」を読む
感想投稿日 : 2022年9月17日
読了日 : 2022年9月17日
本棚登録日 : 2022年9月17日

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