キューバ危機 - ミラー・イメージングの罠

制作 : ドン・マントン 
  • 中央公論新社 (2015年4月24日発売)
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サバゲーをやっていると、戦争とはいかに相手の意図を察することと、自陣内で起こる誤解を極少化するかが勝利につながることかが体感できるが、この本で語られているキューバ危機の実相と教訓もまさにそれに尽きる。相手の意図を察するについて危機の当初、ケネディもフルシチョフも社会学で言うところの"ミラー・イメージング"(自分が思っていることが相手も思っていることだろうと確信してしまうこと)に囚われており、本当の意味で"相手の立場に立った共感"を自分の中に持つことができず、意図の錯誤が互いに生じて行った。これは、危機が緊張度を増し核戦争の恐怖が二人を支配するにつれ、劇的なまでに相手への共感が増してくることになる。(あるいは本来的には二人ともそういう資質を持ったリーダーであり、当初の"怒り"がそれを歪めていた可能性もある)

自軍内で起こる誤解と、その誤解が相互不信につながりふとしたことでキューバ危機は熱戦に結びつきかねなかったことはこの本の最終章にくどいほど事例が示されている。これは軍隊という組織の複雑さとコミュニケーションという相互作用の、その当日の情報技術の限界も含む困難さが要因となっている。これを解消するには組織をシンプルにし、コミュニケーションを円滑にすること、また、リーダーとしての情報コミュニティに対する信頼や疑いのバランスなどの資質が重要になってくる。

この本でもうひとつ勉強になったのは、山火事の後の原野がみずみずしく再生されるが如く、キューバ危機を緊張の頂点として、それ以降、欧州ではソ連に対するイメージがよい方向に変容し、米ソ首脳もホットラインの解説や部分的核実験停止条約の締結等、デタントに向けたベクトルが加わり始めたということである。これは、米ソ両首脳がミラー・イメージングの虜とならず、互いの共感力を持って話し合いで解決したことによるポジティブな波及効果であったと筆者は論じている。

そのほかキューバ危機の語る上での論拠となっているロバート・ケネディの「13日間」などにも最新の資料で検証を加え、彼が大統領選挙を念頭においてかなり自分の手柄にしてしまっていることなど、歴史の本質を見る上で示唆に富む話が多数あった。政治コミュニケーションを事例を持って知る上では興味深い一冊であったと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 国際政治
感想投稿日 : 2015年10月27日
読了日 : 2015年10月27日
本棚登録日 : 2015年10月27日

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