教養の力 東大駒場で学ぶこと (集英社新書)

著者 :
  • 集英社 (2013年4月17日発売)
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本棚登録 : 240
感想 : 27
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英文学者による教養論。P.99で著者がいうように「一般書・新書文体を使」って書かれたものである。著者自身の経験から得られた知見が述べられている。

逆に、先行研究のレビューが少なく、巻末の参考文献を見る限り、猪木武徳、村上陽一郎、西山雄二のそれぞれの論には触れられていない。ちなみに、この中には駒場関係者も含まれる。サブタイトルに「東大駒場」という言葉が使用されたり、黄色い帯に「東大には、なぜ「教養」学部が残ったのか?」といった、個人的に購買意欲がそそられる表示・体裁となっている。こうしたことから、ある程度組織的コンセンサスが織り込まれているのではと思い込んで読み進めた。だが、新書・啓蒙書の部類だからか、最初にいったとおり、ある「一事例の紹介」という印象が強く残った。

とはいえ、大学教育における「教養」の概念を考えていく上で、必要な視座を再確認できた。例えば、①主な日英の辞書からの教養の定義を列挙、②修養、教養主義のレビュー③教養教育の成否≒基礎知識・学力の定着度という点である。

また新時代の教養の柱、すなわち「知的技術」「センス・オブ・プロポーション」「人格」の提示にも共感できた。これらについても、多くの場面で論じられる機会が多いが、コンパクトに著者なりの整理がなされている。

本書の最後で、「全人教育としての教養教育が充実し、より多くの教養人が生まれれば、それだけ社会の秩序は整っていくはずである。」(P.171)という言説で結論づけている。全く否定のしようがない意見だ。現在、多くの国公私立大学・中高で教育理念の中で全人教育を標榜していることからも明らかである。個人的には、全人教育の概念の出自を意識しつつ、その用例が一般化・普遍化した現状を素直に受け入れたい。

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私が修論で書こうとしていることは、古くからある仮説を新しいデータで実証することでもあると気づいた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教養教育
感想投稿日 : 2013年4月29日
読了日 : 2013年4月29日
本棚登録日 : 2013年4月29日

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