火星の魔術師

著者 :
  • 青空文庫 (2007年1月16日発売)
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(あらすじ)
 火星観測マニアの大村昌作に連れられて、英二は、私設天文台のある高原に火星観測にやって来る。
 星が出るまでにはまだ間があるため、その辺をちょっと歩いているうち、二人は巨大な植物が生い茂る不思議な空間に迷い込む。
 火星の植物を育てているという若い青年に誘われ、青年のいる研究所に立ち寄った二人が経験する恐怖の体験とは……。
     
(感想)
 舞台はいささか季節外れ(秋?)の高原。
 澄んだ空気が感じられるいい舞台ですね。
     
 そして大村昌作は只のサラリーマンながら、会社の同好の者たちで作っている『星の会』の幹事を務める素人天文家。
 なかなかいいご趣味をお持ちですね。
 当時はまだ火星についてよく分かっていなかったので、色々と想像する余地があったのでしょう。
 科学にしろ何にしろ、中途半端に分かっているくらいが、一番想像の余地があって楽しい時期ではないでしょうか。
     
 本作品では「染色体」というのが重要なキーワードとなっています。
     
「それですよ、この染色体という奴が問題なんです。これは犬でも菊でもその種類によって数が必ずきまっているんです。例えば百合が二十四で犬が二十、人間なら男が四十七で女は四十八というように……」
     
 現在ではヒトの染色体は、男も女も46本ということになっていますが、当時は男が四十七で女は四十八と言われていたのでしょうか。
 当時の人は、染色体を操作して生物を改良することができる!と色々と想像していたのでしょうね。
 しかし、現在の目で見れば、今現在存在する個体の染色体をいきなり変えるなんてことは無理な話で、操作をして次の世代に新しい個体を生み出すのが現状です。
      
 当時の知識層のディレッタンティズム、そして科学と未来社会に対する夢と希望、そして秋の高原の澄んだ空気、そして誠子さんの良識。
 色々な要素を味わうことのできる好短編でした。
     
(追記)
 はてなキーワードで「ディレッタンティズム」にリンクされたので見ると、何だか否定的なこと書かれています。
 専門用語としてどのような意味で使われるのかよく分かりませんが、私はこの用語を漠然といい意味で使っています。
 元来私は学問や芸術の方面に進むべきだったと思うのですが、愚かなことに人生を誤り、底辺に落伍してしまいました。
 そんなわけで学者や芸術家にはなれませんでしたが、素人として、学問や芸術を楽しんでいこう、というつもりで、私は市井のディレッタントというつもりで生きています。
   http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150519/p1

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 900 文学
感想投稿日 : 2015年5月19日
読了日 : 2015年5月19日
本棚登録日 : 2015年5月19日

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