なぜヒトは旅をするのか―人類だけにそなわった冒険心 (DOJIN選書)
- 化学同人 (2011年1月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784759813371
作品紹介・あらすじ
ヒトはなぜ旅ができるのか。渡りをする鳥や所属集団を替える霊長類は存在する。しかしそれは、各個体の生活圏での行動である。ヒトは、自らが所属する集団の生活圏を離れ見ず知らずの集団の生活圏に入り、ふたたび自らの生活圏に戻る「旅」ができる。このような行動はなぜ可能になったのか。本書では、旅が可能になる、見知らぬ他者でも中立的で対等にコミュニケーションできる性質を「許容」と呼び、これがどのように進化したか、ヒトと近縁のサル類との比較から浮き彫りにする。
感想・レビュー・書評
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なぜヒトは旅をするのか、という問いに対しての筆者の仮説を綴った本。「人」ではなく、「ヒト」としているのは、動物の「種」としてのヒトを対象に仮説を組み立てているからである。
結論を一言でいえば、「旅をすることは、種としてのヒトの遺伝子が生き残っていくために有利であるから」ということだと、私なりには理解した。
ヒトの移動(すなわち旅)は、約6万年前にはじまった。私たちの祖先である、アフリカのホモ・サピエンスが、アフリカを出て世界中に移動を始めたのだ。いわゆる、グレート・ジャーニーである。狭い地域で暮らしていくよりも、広い地域にちらばった方が、種としての生存確率はあがるだろう。移動により、種族間のコミュニケーションも生まれる。彼らが自分たちの生存のノウハウや、あるいは、具体的な「道具」等についての情報を伝え合うことで、両方の種族の生存確率も、あがるはずである。
要するに、ヒトが旅が好きなのは、あるいは、移動することが好きなのは、そうすることによって、人類としての生存確率が高まるからであり、それは、我々の遺伝子レベルに既に刷り込まれていることなのだ、というのが、筆者の結論と理解した。
それが正しいかどうかを判断する能力は私にはないが、非常にロマンチックな面白い考えだと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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「なぜヒトは旅をするのか?」と問われたら、「なに言ってんの、ヒトは旅をするからヒトなんだ」とちょっと斜に構えて答えたくなる。そういう好奇心、探求心、冒険心を備えた遺伝子を持っている動物が人間に進化したのだ、みたいな。
で、「霊長類学」の先生が書いたこの本だけど、遺伝子も踏まえつつ、むしろその先というか、なぜヒト(だけ)に旅が可能だったのだろうかを問う内容になっている。そういう意味では、「なぜヒトは旅ができたのか」というお話である。
すなわち、見知らぬ人がどこかからやって来た時に、即座に敵対したり撃退したりするのではなく、中庸な態度をとりつつ、食べ物や一夜の宿を与えたりできる性質…それを著者は「許容」と呼ぶ…を人間が持っていることである。
まあ、基本的動機は好奇心であろう、とも言っているわけだが。
もっとも、何者かがやって来た時に即座に敵対したり撃退したりする文化もあるだろうし、侵略や戦争が起こる現実を十分に説明しているとも思えない。
戦争等については「社会が複雑になり過ぎて、偏った個人(独裁者とか)の思想が突出するからだ」といった説明もあるけど、いまいち説得力不足の観がある。総じて、生煮えの議論のように思った。 -
旅行の歴史とかそういう話かと思ったら、他の動物には無い人間だけに備わった「許容」という性質を軸に語られた本だった。やや期待はずれ。
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人間だけが、他の集団からやって来た個体を許容し、歓待することができ、このことが人間に「旅」することを可能にしている。文明の黎明期に高かったヨソ者への許容度が、文明が発達し、物資的に豊かになると下がってしまうのは、動物としての人間は退化、劣化しているということの現れなのかもしれない。
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読完2011.09図書館
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【生き方を学ぶ】
誰でも若いころには、ふと旅に出たくなる。中には、国内から海外まで探し物の旅を続けたりもする。残っている最古の旅行記は、仏教の教えを求めた中国僧法顕のインド旅行だと本書では紹介している。 -
文化人類学から旅を分析。ヒトだけに備わった『許容』を知る。