緑の天幕

  • 新潮社 (2021年12月22日発売)
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感想 : 3
5

700頁の大作、ウリツカヤの全エネルギーを投じたかのような、ロシアのエッセンスが全て、ぎゅっと詰まっているかのような香り高い大河小説だ。

スターリンの死から始まる「その」時間・・ラストは1996年   ソビエトが崩壊し、プーチン政権が始まっている時間だ。
物語は少年3人を軸に、網の目の様に関わる人~そこにはタタール人もジョージア人も・・そしてユダ公と呼ばれてヘイトされるユダヤ人も。
こうして読みくだすとかの国は芸術が人々の血管を脈々と流れて行く血潮のように感じる。言葉として詩が常に傍らにある。舞台となっている時間はパステルナークが人気高かったことを思わせる。
そして小説~トルストイは無論、ツルゲーネフ等(案外ドフトエフスキーが出てこない)

自殺者数世界一、平均寿命70歳のロシアの生と死がページの随所に炸裂する。全体から見るとミ―はのウェイトが重かったような気がする。イリヤ、オーリャはある意味別格的扱いを受けているがどちらも特異な個性であるがゆえに周囲に波を起こす。

ストーリーは時間的なもので無く、スプラッシュの様に、幻灯機のこま落としの陰影を持ってアトランダムに挿入され、読み手はその都度スポットライトを当てられる人物が刻むノミの刃に一喜一憂させられて行く仕様。

表題に関する字句が出てくるのは中ほど・・・緑の天幕に向かって長く続く行列・・に見えるロシア人の在り様

ロシア人は呼称、姓名(祖先や夫の名が付いたり)が独特な為、同一人物でありながら、コロコロ変わる呼び方で、混乱が無かったと言えば嘘になる。無論、今回もA4紙にびっしり、時系列、横断図、関係図など書いて読んだ。でも100人登場したとすれば3,4人❓❓に終わった人もいたかもしれない。それをスルーして俯瞰図として眺めたロシアの人生縮図から浮かび上がるものをウリツカヤは、それぞれに抱いて、感じて、何かを掴んでほしかったのかと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月31日
読了日 : 2022年3月31日
本棚登録日 : 2022年3月31日

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