鏖戦【おうせん】/凍月【いてづき】

  • 早川書房 (2023年4月25日発売)
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感想 : 9
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昨年秋(2022年11月)に亡くなったSF作家、グレッグ・ベアの代表中編、『鏖戦(原題:Hardfought)』(ネビュラ賞受賞)と『凍月(原題:Heads)』(星雲賞受賞)を収録した一冊。以前読んだ同著者の『ブラッド・ミュージック』がとても面白かったので、本新訳を手に取ってみることに。

『鏖戦』は、「これぞハードSF」と言わんばかりの高難度なファンタジーSF。姿形や社会構造が大きく変容した人類が、異星種族<セネクシ>との果てない戦いを繰り広げる世界が舞台。<セネクシ>を抹殺することだけを目的に育てられた、妖精のような姿をした少女・プルーフラックス。<セネクシ>の研究者で、人類のことを知ろうとする阿頼厨(アライズ)。両者の視点を中心に描かれるSFファンタジー。
設定や用語がかなり特殊で、誰の視点・会話なのかを把握するのもなかなかに難しいため、整理しながら読み進めないと訳が分からなくなること請け合い。その難解なテキストに酔いしれることが出来れば、内容をしっかりと理解出来なくても楽しめることが出来ると思うが、そうでない人には苦痛で仕方がないかと。間違いなく人を選ぶ作品。

『凍月』は、『鏖戦』とは対称的で、比較的読み進め易い近未来SF。人類が地球から月や火星に植民した世界が舞台で、地球から冷凍保存された人間の頭部410個を月に持ち込み、その記憶を甦らせるプロジェクトを巡る物語。
絶対零度を実現するという研究内容や、ラストの展開をちゃんと説明しろと言われると難しいが、物語の展開と結末を大枠で理解することは、テキストを追っていれば十分可能な内容となっている。

"The Hard SF"な『鏖戦』も嫌いではないが、個人的には読み易さのバランスが取れた『凍月』の方が好みだったかな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年11月12日
読了日 : 2023年11月12日
本棚登録日 : 2023年4月29日

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