ちしきのぽけっと (20) かき氷 天然氷をつくる (ちしきのぽけっと20)

著者 :
  • 岩崎書店 (2015年5月14日発売)
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「埼玉県の長瀞(ながとろ)では、100年以上もまえの、明治時代から、山の谷間にある池で氷がつくられてきた。この氷づくり専用の池は、氷池(こおりいけ)とよばれる。
このような天然氷をつくる氷屋(製氷業)もいまでは全国で数軒、埼玉県では、阿佐美さんの家だけになってしまった。
冬のあいだ氷池でつくった氷を夏までとっておいて、いまも売っているのだ。」


本書では、阿佐美さんの氷池の様子を、夏過ぎの氷づくりの準備から、11月の水入れ、1月から2月までに3回行う氷の切り出しなど、その作業の様子や方法を丁寧に追う。

「天然氷」という言葉を聞いたことはあったけれど、ふぅん、自然にできた氷なのかぁと思ったぐらいで、深く考えはしなかった。昔、氷室というものを使って、冬の氷を保存していたらしいということは知っているが、随分溶けただろうなぁというくらいの想像しか及ばない。昨今、かき氷ブームなんかもあったように思うが、そんな中でも名に聞いた「天然氷」とは、かくも手間ひまのかかる品であったか。
電気の力で凍らした普通のかき氷であっても、1000円以上したりする世の中であるが、このようにして作られた「天然氷」であれば、それなりの値段がついてもいいと思った。
そもそも、「天然氷」というからには自然の寒さを利用して出来る氷なわけだが、どこが天然というのかというくらい、作る人の手間暇がかかっているのだ。まず、氷を作る以前に、周囲の草の刈り取り、氷池の掃除、保全。そして水を入れた後も毎日の見回り、落ち葉の掃除。雨や雪が降ったら氷の質が落ちるので、やり直し。雪が積もれば、その雪を取らねばならない。
確かに水を凍らすのは気温の低さであるが、存分に人の手がかかっている。なんなら電気で凍らした氷よりも人の手が入っているのだ。
その労力や、計り知れない。この仕事を続けている阿佐美さんを尊敬する。
今は、「天然氷」ということに価値を見出すことが出来る世の中だと思うが、高度経済成長期などはどうだったのだろうか。経済性と効率化が最優先された時代においては、困難や迷うこともあったのではないか。
けれども、阿佐美さんの祖父が作ったという氷池を保全する阿佐美さんを、かき氷が大好きだったというおじいさんの話を、今年初の氷を手にして満面の笑みの阿佐美さんのご両親を、阿佐美さんの仕事を手伝うご子息の写真を見るにつけ、とてつもなく力強い家族の信頼だとか、脈々と受け継いできたものの力だとか、そういったものを感じて、大丈夫という気になった。
中でも、阿佐美さんとお父様のかき氷を食べている写真が素晴らしい。

埼玉は遠いのでなかなか行けないけれども、食べてみたいな、天然氷。
ちなみに、「てんねんごおり」ではなく、正式な呼称は「てんねんぴょう」というらしい。
そして、天然氷が溶けるときに見られるチンダル像(アイスフラワー)がとてつもなく可愛い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 5類
感想投稿日 : 2020年7月12日
読了日 : 2020年7月12日
本棚登録日 : 2020年7月12日

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