とても上質な映画でした。詩的で文学的な奥行きのある作品。ジャンルとしては恋愛ものになると思いますが、恋愛を恋愛としてしか描き出さない他の多くの作品とは異なります。恋愛といっても結局、人生のさまざまな出来事や経験の影響を受けながら、その人の一部として成り立っていくものだと思い知らされました。他の多くのラブストーリー系の作品がいまいち面白味に欠けるように感じてしまうのは、恋愛というカテゴリーに分類されるものだけの中から、手を替え品を替え物語を組み立てているからにすぎないからで、ゆえにありきたりな仕上がりで浅い感じの印象を受けてしまうのだと思います。本作は、恋愛とは直接的に関係しない、ように見えるけれども、そこに重要な役割を果たしている人生の悲喜交交が、豊かな文学性をもって描かれており、とても味わい深いです。文学性、と書いたのは、人生の儚さや虚しさ、生きるための闘い、あるいは死であったりを、場合によっては直接的な言及を避けつつ、しかし確かにそこに存在を感じさせるものとして、作品に同居させているからです。特にそういった部分における女性目線の鋭い感性が感じられ、私はルシア・ベルリンの著作を連想しました。
また、映像表現としても大変洗練されています。原色に近いビビットなカラーが多用されており、正面からよりは斜から捉えたり、ガラス越しにややぼかしたりなど、余白的な要素が喚起する想像力を巧みに利用しているように思います。
失敗も悲しみも、予想しないあるときに花開く豊かさにつながり、他人の姿にまだ知らなかった自分を見出して、まだ見ぬステージへと足を踏み出す。そしてそこで見えてくるものの一つとして、ちょうどブルーベリーパイのような、酸っぱくて甘い、恋愛のいち場面が、美しく描き出されています。オトナなあなたにお勧めできる作品です。
- 感想投稿日 : 2023年12月20日
- 読了日 : 2023年12月20日
- 本棚登録日 : 2023年12月20日
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