山峡奇談 (河出文庫 し 10-7)

制作 : 志村有弘 
  • 河出書房新社 (2020年1月8日発売)
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感想 : 1
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古代から昭和初期まで、日本各地に伝わってきた
山に関する不思議な話、怖い話を集め、
現代語に訳したエピソード集。
自然界には人が踏み超えてはいけないボーダーラインが
確実にある、と思った。
一部、柳田国男『遠野物語』の読み直しにもなった。
しかし、附録「山窩綺談」は
明らかに戦後の作り話で蛇足というか興醒め。

■古代・中古(奈良~平安時代)
 僧と鬼にまつわる話が目立つ(山だから当然か)。
 新潟の「逃入(にごろ)村の塚と道真の祟り」が不気味。
 村の人が手習いをすると菅原道真に祟られるため、
 文字が書けないので、
 よその人に頼んで代筆してもらわなければならず、
 何故祟られるかというと、
 昌泰の変【※】によって道真を追い落した藤原時平と
 その妻の墓(塚)があるためだ、とか。
 【※】901年、左大臣藤原時平の讒言により
    醍醐天皇が右大臣菅原道真を大宰府へ左遷した。

■中世(鎌倉~安土桃山時代)
 盗賊の話や武士の話。
 『撰集抄』の西行が人造人間を作ろうとした
 との記述が(改めて)強烈。
 東都隠士『万世百物語』収録、
 宮本武蔵が悪漢に囚われた女性を救う話も印象深い。

■近世(江戸時代)
 動物を巡る奇談。
 山に入る人はやはり熊や蛇を恐れていたか。
 『万世百物語』収録、
 蛇に呑まれた我が子を救い出したイタチの話「鼬の復讐」は
 グリム童話「狼と七匹の子山羊」に似ている。
 『奇談雑史』収録、「狐に誑かされた男」が
 滑稽かつ奇怪。
 阿辺野の古狐に気をつけろと言われても
 怖気づかなかった男がまんまと騙される話。

■近代(明治時代~昭和)
 天狗を巡る話あり、幽霊譚あり。
 杉村顕道『信濃怪奇伝説集』中の「蓮華温泉の怪話」に
 既視感を覚えたが、
 先に読んでいたのは岡本綺堂「木曽の旅人」だった。
 山の中の一軒家に旅の男がやって来て、
 一晩泊めてくれと言い、主は快く招き入れたが、
 幼い男児が怯え、犬は吠え……結局、
 旅人は立ち去ったが(ネタバレ回避)――という恐怖譚。
 「木曽の旅人」初出は1897(明治30)年『文藝倶樂部』
 だそうなので、1942年に刊行された
 『信濃怪奇伝説集』(←1934年『怪奇傳説 信州百物語』改題)
 より先で、すると、
 信濃には同様の物語が様々なヴァリエーションで
 語り継がれてきたのだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  民話
感想投稿日 : 2020年7月13日
読了日 : 2020年7月13日
本棚登録日 : 2020年1月11日

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コメント 1件

本ぶらさんのコメント
2021/02/23

こんにちは。
これは面白そうだなぁー。
前に、この手の「山怪」とかいう本を読んでいたら。いきなり、襖がカチカチ鳴りだして。
襖だから、カチカチなんて音をたてるような部分は取っ手のところしかないんだけど、特にそこに何もない。
結局、5分くらいカチカチ鳴り続けて、急に止んだなんてことがありましたけど、自分の家は山の中でなく、普通の住宅街ですw

学生時代はよく山に行ってたせいか。山=遊び場みたいな意識があって。よく言われる「山は異界」みたいなことって、あまり体験ないんですよね。むしろ、変な出来事は下界の方が多いよ!みたいな(^^ゞ

しかし、ずいぶんこの手のことのお詳しいみたいですね。暇な時にまた来て、勉強させてもらいますのでよろしくw

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