大奥と料理番 包丁人侍事件帖 (2) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店 (2015年7月25日発売)
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感想 : 3
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江戸城の台所人・鮎川惣介と大奥添番・片桐隼人の幼なじみコンビが様々な事件に挑むシリーズ第二作。

このシリーズは最初学研M文庫で刊行されていたのだが、そちらが廃刊になったため角川文庫から刊行し直しとなっている。その際に『大幅に加筆・修正』されているとのこと。学研M文庫版の第二作は読んだが、今後角川文庫版で読んでいくにあたり角川文庫版で第二作に遡って読んでみた。

詳しい内容は学研M文庫版のレビューを見ていただくとして、こちらのレビューでは双方の違いに注目して書いていく。
大きな違いはあんず=あらしではなく、あんずとあらしが別人として描かれている。角川文庫版の第三作を読んだときの違和感はこれが原因だった。
学研M文庫版であんずがあらしと名を変え大奥に潜入するための役職は御末だったが、力仕事が多い下働きのため大柄な女性が多いようだ。そのため小柄ですばしこいあんず=多聞=炊事や掃除などの下働き、あらし=御末と分けたのかも知れない。

あんずを大奥に送り込んだ者は学研版と同じだが、あらしについては新たな一派という設定になっている。またあらしの結末は学研版と同じだが、あんずの結末はもちろん違っている。ホッとするような腹立たしいやら。
しかしあんずが残した『寺が滅法界』という言葉はなるほど意味深。そのうちに再会があるだろうか。

このシリーズを読んでいると、先日読んだ奥山景布子さんの「流転の中将」の言葉を思い出す。
『下の者に罪をなすりつけ、上にある者は何もなかったかのように生き延びる。そうすることで、全体が延命する』
一般的には膿は出しきれば良いと思うが、あまりにも影響力のある人が犯罪を起こせば、その波紋はどこまでも広がり不幸の連鎖が続く。結局は隠蔽するしかないのか。

この作品でも将軍・家斉の苦悩が度々漏れ出ている。自分が罪を犯した者を罰することにより、自身や自身の係累にも返ってくるかも知れない。
逆に家斉が害を被ったとしても少々のことでは騒ぎ立てられない。例えば米に砂が混ざっていても黙って食べる。指摘すれば米の検分をしたものが最悪切腹ということになるからだ。
惣介や隼人など一介の幕臣には出来ないことが多過ぎて苦しいが、将軍・家斉にも出来ないことが多くて苦しい。

終盤、長女・鈴菜の友人を助けるために惣介一家が団結するシーン、鈴菜に対する母・志織のセリフは改めて読んでも良い。
シリーズ完結編を読んだ後にこの作品を読むと、鈴菜と大鷹源吾の初対面シーンは興味深い。鈴菜の友人を救うためとはいえ目の前で人を斬り捨てた大鷹源吾を鈴菜はどう見ただろうか。

※学研M文庫版「大奥と料理番」レビュー
https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/4059006033

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説 サスペンス・ハードボイルド
感想投稿日 : 2021年7月15日
読了日 : 2021年7月15日
本棚登録日 : 2021年7月15日

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