パリ警視庁迷宮捜査班 魅惑の南仏殺人ツアー: 魅惑の南仏殺人ツアー (ハヤカワ・ミステリ 1960)

  • 早川書房 (2020年10月1日発売)
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感想 : 27
3

カペスタン警視率いる、問題警察官たちの巣窟〈特別班〉の活躍を描くシリーズ第二作。

今回は過去の迷宮入り事件ではなく、起こったばかりの殺人事件の捜査を命じられる。と言っても現場に着いてみればやはり〈刑事部〉や〈捜査介入部(日本で言えば暴力団対策担当と立てこもりやテロ対策の突入隊との合体?)〉に邪魔者扱いされ、捜査資料も古くて役に立たないものしか回してもらえない。
しかし〈特別班〉には優位性がある。何しろ被害者はカペスタンの元夫ポールの父親で元警察官だったのだ。同時に何故起きたばかりの事件が〈特別班〉に回って来たのかも分かった。

同性愛者であることを理由に組織を追われたルブルタンや書いた小説にモデルとして実在の警察官を出し過ぎてしまったロジエール、コンビを組んだ相手が不幸になる死神ことトレズ、元ギャンブル依存症のエヴラールは警察官としては問題ないが、パソコンは駆使出来ても基本や常識が分からないダクスやスピード狂で自分の体より車が大事なレヴィッツ、アルコール依存性に近いメルロは大丈夫なのかと心配になる。
今回はさらに自分を中世の騎士と信じるサン=ロウなる、とんでもないメンバーが加入。
ロジエールが飼い犬と勤務するのにようやく慣れたところ、次はメルロがネズミを連れてきた。やはりカオス。

しかしカペスタン始めメンバーたちの良いところは議論はしても互いの人格や性格や信条、セクシャリティについては否定せず受け入れているところ。
例えば言わなくても分かるだろう当たり前のことすら理解出来ないダクスには一つ一つ注意して付箋に書かせる。レヴィッツが何台車をオシャカにしようと怒らない。メルロの止まらないお喋りは聞き流しても遮りはしない。
何だか学校のような雰囲気だが、そうやってそれぞれが受け入れられているからこそ、それぞれが得意分野で捜査に活躍している。
まさか中世の騎士がこんなに活躍するとは思わなかった。そしてメルロのネズミも。

肝心の事件の方だが、カペスタンの元義父の前にも同一犯人によると思われる事件が起きており、さらに新たな殺人事件も起こる。
元警察官、町の名士、背景不明な男。この三人の共通点を追う中で、カペスタンらは辛い事実を知ると同時に意外な人物が関係していることも知ることになる。
これは前作以上に辛い結末になるのか。

カペスタンの元夫が元コメディアンというのも意外だが、死神トレズの特技も意外だった。しかもその特技の世界大会があるとは。

このシリーズを読んでいると、フランスという国の裏側を改めて知る。権利や自由を主張する国というイメージだが、この作品では同性愛に抵抗があるし性差別もあり、移民や人種に対する侮蔑や差別も日常的なようだ。
〈捜査介入部〉と〈特別班〉との連絡係として〈特別班〉に役立たずな資料しか持って来ないディアマンはやがてその〈捜査介入部〉から弾かれることになる。その理由は正に私たちの知らないフランスの裏側事情による。

日本も外国人を全面的にまたは好意的に受け入れているとは言いがたいが、その理由はフランスの事情とは違うと思う。島国で長いこと外国人に慣れていなかった歴史や銃犯罪が日常的でないことも多いに関係していると思う。私なんて英語で話しかけられても逃げ出すしかない。学校で長いこと英語を勉強したにも関わらず。

〈特別班〉はこのまま肥大していくのか、どこに向かうのかも気になるが、カペスタンが元夫との関係をどうするのかも気になるなぁ。まだずっと先のことになるだろうけど。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 警察・刑事
感想投稿日 : 2020年10月31日
読了日 : 2020年10月31日
本棚登録日 : 2020年10月31日

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