無実の君が裁かれる理由

著者 :
  • 祥伝社 (2019年8月8日発売)
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本棚登録 : 210
感想 : 34
4

初めて読む作家さん。
タイトルから重苦しい話なのかとドキドキしていたが、意外と爽やかな結末だった。

ストーカー行為、ドローン破壊、電車内での痴漢行為。
冤罪を晴らすために奔走する裁判官の息子・牟田、父親が殺人容疑で裁判中に自殺した紗雪、紗雪の父親に母親を殺されたと信じて憎んでいる美兎(みと)。

被害者や真犯人と繋がりがあるならともかく、ただ通りかかっただけ、たまたまそこに居合わせたというだけで罪を着せられては堪らない。
どう防げば良いと言うのか。
今の時代、人の口だけではない、SNSであっという間に不確かな情報がさも真実のように駆け巡る。
現実にそうしたデマに苦しみ被害を訴える事件もよく見聞きする。
決して他人事ではない、いつ自分に降りかかるか分からない。
有罪を立証する以上に無実を証明することの何と難しいことか。

この作品では紗雪や美兎の優秀さや人脈の広さで都合よく聞き込みや調査が進むが、現実には警察や弁護士、探偵などのプロでもこう上手く行くかは疑問。
また冤罪が晴れたところで、罪を着せられた人の生活が元に戻ることはかなり難しいだろうことも想像出来る。
この作品では犯人扱いされた人々を信じてくれる人々がいたり、冤罪が晴れた後に謝って元の関係に戻れたりしているが、そう上手く行く例は少ないだろう。

犯人扱いした人々は自らの勝手な正義感で犯人扱いした人を中傷し、距離を置き、時には暴力に訴えたりもする。
そうやって追い詰められた人は、中には心が折れ紗雪の父親のように命を断つ人もいるかも知れない。

この作品では犯人扱いした当人たちが謝罪し吹聴した人々に対して誤認だったことを伝えているだけ救いがある。
でも現実世界ではここまですることはなかなかないのではないか。ましてや一度広まったSNS情報や噂はなかなか消えない。
冤罪が晴れたところで犯人扱いした人々が謝ってくれ元の関係に戻ることも難しいだろうし、職場や学校に戻れるかも分からない。
それを考えると一つの罪が巻き起こす影響や被害は恐ろしい。

牟田が割りと地味なキャラクターながら、裁判官の父親の苦悩や葛藤、激務により追い詰められていく姿を絡ませることで、また第一話で冤罪の当事者になることで冤罪事件に大いなる興味を持ち冤罪に苦しむ人々を助けたいと考える過程は説得力があった。
また犯人扱いされた側だけでなく事件の被害者をきちんと思いやるところも好感が持てた。
また紗雪と美兎を対立させてきた事件の真相やその結末も気になって一気に読めた。

先に書いたように都合良く出来た部分もあるが、せめて小説の世界くらいこういう結末があっても良いと思えた。
現実世界もこういう救いがあれば良いのだが。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サスペンス・ハードボイルド・探偵
感想投稿日 : 2019年9月26日
読了日 : 2019年9月26日
本棚登録日 : 2019年9月26日

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