公正取引委員会の女性審査官の活躍を描くお仕事ミステリー。
シリーズ2作目。
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公取委審査官6年目の白熊楓。新年度を迎え九州事務所へ異動を命じられた。深く考えることなく着任した白熊だが、東京本局とは違う地方勤務の難しさに直面する。6章からなる。
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「必要悪」の是非。なかなか大きなテーマでした。そのテーマに沿って2つの面から描かれています。
1つは談合やカルテル等の企業連合による不正。
本作でも白熊をはじめ公取委の面々が摘発に乗り出していたように、現実社会でも毎年のようにどこかが摘発され、誰かが逮捕され、謝罪会見が行われます。なのに、一向にこの不正はなくなりません。
効率的に利益を上げることこそ正義だと企業が考えている限り、この不当な取引制限は必要悪であると捉えるからでしょう。「盗っ人にも3分の理」の類ですが、実社会でまかり通っているのを見ると、暗澹たる気持ちになります。
もう1つは悪を倒す手段として悪を用いる、いわゆる「毒を以て毒を制す」やり方。必殺仕事人等のダークヒーローが思い浮かびます。
本作でも、九州の地方財閥の御曹司で公取委九州事務所審査官の常盤がまさにそうで、地元の暴力団の力を削ぐ手段として不正(というか犯罪)に手を染めていました。
常盤の思いはわかります。先ほどの企業論理よりも共感しやすい。ただ、自分の暗躍の障害になりそうな白熊を色仕掛で籠絡しようとするなど言語道断です。
この常盤。稀代の人誑しであり好悪両面を併せ持つ複雑な男でしたが、魅力的な登場人物でもありました。
だからクライマックスを飾る常盤と小勝負の対決には、ルパン対ホームズを見るようで痺れてしまいました。
常盤という人物を作り出した時点で、本作は傑作たる資格を得たのではないでしょうか。
重厚な筋立て。二転三転する展開。そして転部に当たる第5章のはじめに箸休めのように挿まれる小勝負視点の話。その構成の巧みさに唸ってしまいました。まったく見事なミステリーでした。
- 感想投稿日 : 2023年4月27日
- 読了日 : 2023年4月27日
- 本棚登録日 : 2023年1月13日
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