【2020年・第18回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞受賞作】紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人 (『このミス』大賞シリーズ)

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  • 宝島社 (2020年1月10日発売)
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 触れるだけでどんな紙でも見分けられるという紙鑑定士の渡部圭が、遭遇する数々の事件の解決に奔走する姿を描くサスペンスミステリー。シリーズ第1作。
 第18回『このミステリーがすごい! 』大賞受賞作。
         ◇
 ある日、渡部圭の紙鑑定事務所に1人の女性が訪ねてきた。要件は彼氏の浮気調査の依頼である。どうやら「渡部紙鑑定事務所」を「渡辺神探偵事務所」と勘違いしているらしい。それでも暇を持て余していた渡部は話を聞いてやることにした。

 その女性の名は米良杏璃といい、名刺によると職業は美容師、住所は埼玉県所沢市となっている。杏璃から彼氏の浮気を疑った理由を聴いたあと、手がかりになるものを尋ねると、スマホで撮影した画像を見せてくれた。写っていたのはジオラマで、台座の上にあるのはきちんと彩色された戦車2台と兵士2人のプラモデル。最近にわかに彼氏が作り出したものだという。

 紙については造詣が深い渡部だが、プラモデルについては門外漢だ。それでも成り行きで杏璃の依頼を引き受けることにした渡部だったが……。(第1話「風変わりな依頼」) 全25話及びエピローグからなる。

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 紙の販売代理店を1人で営む紙鑑定士の渡部が名探偵への道を歩むきっかけが描かれる第1話。かなり軽い主人公の登場で、東直己『探偵はBARにいる』を連想してしまいましたが、〈俺〉よりもさらに軽いキャラクターでした。

 実はうっかり2作目から読んだため、同様のライトミステリーだろうと思い込んでいたのもあって気楽に読み進めたら大まちがいでした。 
 凄惨な殺人事件が起こり、大量殺人の危険を孕む本格的なサスペンスミステリーではありませんか。だから読み出したら止まらなくなるほど面白かった。

 また、このミステリーの面白さは、渡部の紙鑑定スキルだけでは事件の核心に迫ることが全くできないというところにもあります。『ガリレオ』の湯川や城塚翡翠のような神探偵にはほど遠い。それだけに思わず応援せずにはいられない。うまい設定だと思います。

 だからこそ登場するのが優れた相棒。本作では伝説のプラモデル造形家である土生井と、渡部の元カノの真理子。
 知略の土生井、行動力の真理子。どちらが欠けても大量殺戮を未然に防ぐことはできなかったでしょう。

 特に土生井の優秀さには舌を巻くばかりで、自宅や病室にいながらにして的確なアドバイスを渡部に送ります。その卓越した分析力と推理力は名探偵なみ。土生井の安楽椅子探偵小説と言った方がいいぐらいの大活躍でした。
 出番は少ないものの真理子の活躍も大きい。ランボルギーニアヴェンタドールを時速 240㌔ですっ飛ばし、ショベルカーを自在に操り殺人犯をぶっ飛ばす。
 かくして諸葛亮と関羽を得た劉備のごとく、渡部は事件を自らの掌に収めたのでした。

 さらにテーマもよかった。
 渡部の調査が進むに連れ浮き彫りになる2つの要因。東日本大震災と児童虐待嗜好を絡め、非常に緊迫感のある展開は見事でした。実によく考えられた構成だったと思います。

 先に読んだ2作目が短( 中?)編集で軽い内容だったため、この1作目の充実度の高さが余計に引き立って感じられました。
 さあ、3作目はどうなるのか。楽しみです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サスペンスミステリー
感想投稿日 : 2024年1月11日
読了日 : 2024年1月11日
本棚登録日 : 2023年12月18日

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