やさしい日本語――多文化共生社会へ (岩波新書)

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  • 岩波書店 (2016年8月20日発売)
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感想 : 36
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弘前大の佐藤和之さんらが提唱する「やさしい日本語」は、災害初期に日本語に不慣れな人が生き延びるための情報伝達手段として開発された。
本書の著者、庵さんら一橋大グループは、外国にルーツを持つ人たち、障碍者(ろう者)が、社会で情報弱者にならないための手段として新たに〈やさしい日本語〉を提唱する。
使われる場面や役割がかなり大きく広がった感じだ。

実は私も地域の団体でやさしい日本語に関わるボランティアをしている。
佐藤流であれ、庵流であれ、やさしい日本語が社会で認知されているという実感はまだまだない。
社会での有用性、必要性がきちんと説明された新書が出ることで、認知度が高まるといいな、と思う。
本書は、これまでの開発の経緯、やさしい日本語で使える文法事項の枠組み、外国にルーツを持つ人やろう者が言語生活でどんな困難を抱えているかなど、この問題についての基本的な知識を、まとめて提供してくれる。
私には障碍者の方にやさしい日本語が貢献できるという意識がなかったので、その点が収穫だった。

やさしい日本語が多文化共生社会の基盤になるという理念には共感できる。
おそらく、やさしい日本語なんて必要ないでしょ、という向きを説得しようという傾きが強いせいだと思うが、移民や障碍者がよきタックスペイヤーになり、日本社会に貢献できるようになるから、やさしい日本語が必要だという言い方に、どうも違和感がぬぐえない。
日本国籍を持つ親のもと、日本社会で生まれ育った、「無標の」日本人は、よきタックスペイヤーであることを露骨に求められることがあるだろうか。
中学校の社会の時間あたりで、国民には納税の義務があると習うあたりではそうか?
だとすれば、人間はよきタックスペイヤーでないと社会に存在してはいけないのだろうか。
なんだかそんな人間観が感じられて、ちょっとつらい気持ちになった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年8月29日
読了日 : 2016年8月29日
本棚登録日 : 2016年8月29日

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