100万人が受けたい「中学地理」ウソ・ホント?授業

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  • 明治図書出版 (2012年6月25日発売)
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前にも言いましたが、今年は地理も教えないといけない身となりまして、地理の授業なぞ中学以来まったく受けてもおらず、教師になってからも教える機会はありませんでしたので、私自身が一から勉強しています。というわけで、中学校の地理の授業実践を手に取ってみました。それが本書です。
本書では、最初に学習指導要領の旧課程と新課程との違いを説明し、問題点を指摘しながらも「(地理学習が)面白くなくなった理由を「学習指導要領がこうだから。」「文部科学省が変わらなければ。」「入試制度が悪い。」と他人のせいにする向きがある。しかし、授業が楽しくないのは、学習指導要領がどうであろうが、入試の弊害があろうが、基本的には現場の教師の責任である。」と喝破します。他者の責任には誰でもできますが、それで一番困るのは生徒たちですから、上がどうであれ直接生徒に接する私たちが研鑽しないと駄目ですね。
次に著者は「説明的知識(~がある)(~がつくられている)」から「概念的知識(なぜ、そうなのか)」への授業展開の転換を求めています。例えば九州でIC産業が盛んな理由(澄んだ水、綺麗な空気、高速道路や空港などの交通網の整備など)「概念的知識」を理解していれば、諏訪でもIC産業がさかんな理由が推測できる、つまり「転移する学力」を身につけさせることを主張しています。これに関しては、コロンブスの卵というべきか、目から鱗というべきか、言われてみればさも当然なのですが、意識してないとついつい「説明的知識」でとまってしまいがちです。この考えを参考に私は1学期期末試験の問題に「シラス台地や牧ノ原台地で畑作が盛んな理由を簡潔に述べよ」という問題を出しました。シラス台地は火山灰が堆積したもの、牧ノ原台地は扇状地なのでともに水はけが良く水田には不向きであること、河川より高いところにあるという台地の特性上水を得るのに不便なことをなどを理由として畑作が進められたことを説明できた生徒はほとんどいませんでした。私の1学期の最も重要な反省点です。
そして第3章から著者は「ウソ」「ホント」から「へっ!」「そうだったんだ」という自身の実践報告を載せています。私も含めて多くの社会科教員は、解説型・知識習得型の授業展開をしており、探求型の授業を苦手としているのではないでしょうか。しかし「言語活動」や「思考・判断・表現」する力を身につけさせるよう日本社会が生徒たちに要求している以上、探求型授業の実践から“逃げる”ことはできません。そのためにも大いに参考になる本だと思います。
備忘録
・タンザニアとケニアとの国教がキリマンジャロで曲がっている理由は、イギリスのビクトリア女王がドイツ皇帝にキリマンジャロ山を贈ったから。
・カメルーンの国境線がチャド湖まで細長く延びている理由は、宗主国のドイツが貴重な水のあるチャド湖を確保して大西洋へのルートを得ようとしたから。
・カスピ海を海だとすると1982年の国連海洋法条約の適用を受け、自国の権利が及ぶところでは自由に開発を進めることができる。そして、湖だとするとカスピ海は沿岸5カ国の共有財産になり、開発は今後協議していくことになる。今は海なので発見された海底油田は発見された最も近い国のものだが、発見された沿岸部に油田のないロシアやイランはカスピ海は湖だと主張している。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他
感想投稿日 : 2013年7月25日
読了日 : 2013年7月24日
本棚登録日 : 2013年7月24日

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