昭和陸軍 七つの転換点 (祥伝社新書)

著者 :
  • 祥伝社 (2021年7月31日発売)
3.75
  • (1)
  • (4)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 77
感想 : 7
5

 無能、無謀と呼称される昭和陸軍について、その組織論理や合理性に着目して論じた本書。

 これまでそれなりに関連書籍を読破して来た為、陸軍が一概に考え無しの集団とは考えていなかった(視野狭窄である事は間違いないし、独善、傲慢、硬直性甚だしいが)。その観点からでも、改めて合理性を感じる事例に驚いた。統制派(陸軍内派閥、総力戦志向)が日米の物量差を曲がりなりにも認識していた点などは、特にである。

 しかし、最後まで読んで昭和陸軍に対するこれまでの(悪い)印象を補強こそすれ、覆る事はなかった。それよりも、歴史の中に類例を求める考えが強くなった。同時代的には第一次世界大戦時のドイツ帝国であり、古くは戦国時代の武田勝頼である。

 前者は分権主義的で責任者がおらず、軍部独裁化が進み見事に国家が硬直化した。戦前日本の鏡写しであり、「一周遅れた戦争をしたのか」という思いを抱く。

 後者は武田信玄亡き後、序盤は領土拡大を果たすなど中々の武功を挙げた。しかし、経済力など地力の差は覆せずジリジリと劣勢に陥り、外交の失敗(対北条)も重なった挙句に破断点(長篠の戦い)を迎えた。対アメリカ戦を考えた時、合致点に驚く。
 
 著者も述べているように、資源が少ないなど前提条件が厳しいモノというのは、取れる選択肢が少なくなり、さらにリカバリー(回復)も容易では無い、という事なのだろう。要は戦争(特に近代戦)なぞできる国家ではなかったと言う事だ。その上、外交の失敗で敵ばかり増やすなど何をかいわんや、である。

 自分たちがどういう状況なのか、という「看脚下」も徹底できず、さりとて相手国の分析もどこか杜撰。
 本書の中で特に目を引いたのは、アメリカとの破断点は関特演(関東軍特殊演習)であるという論だ。アメリカの観点からは、ソ連が潰れてしまってはその後に第二のイギリス侵攻が起こりかねず、その場合イギリス陥落も起こりうる。故に何が何でもソ連にナチスドイツを引き受けてもらわなければならない。日本は行き掛かり上、「打倒ソ連(ロシア)」を素朴に希求していた訳だが、それが国際関係上なにを意味するのか一顧だにしていなかった。ここでも武力を尊び、政治を疎かにする昭和陸軍(現代も?)の欠陥が露呈している。

 結局、「負けるべくして負けた(負けに不思議の負け無し)」という思いを強くした読後感であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 昭和史
感想投稿日 : 2023年5月28日
読了日 : 2023年5月28日
本棚登録日 : 2023年5月28日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする