米国のクライム・ノヴェル界の大家ウィルフォードが著したノワール文学の傑作で、舞台は1950年代のサンフランシスコ。時代を感じさせない雰囲気で実に読みやすい。ストーリーはいたって単純。その日暮らしの男性と依存症の女性が、ぐだぐだな日々を過ごすというもの。女性は寝てるか酩酊してるかのどちらかで、そんな彼女のために男性は日雇いで酒代を稼ぐ。どうしようもない自堕落な生活が描かれるが、どういうわけだかこれが面白くて仕方がない。破滅に向かっているのに、軽いノリで流れていくから悲壮感がまるでないのだ。ここまでの展開はミステリではない。なのにミステリ小説を読んでるのと同じ感覚の面白さと吸引力。
中盤で一気に転調し、ストーリーは思わぬ方向に転がり出す。ここでまず意見が分かれそうな感じだが、私はウェルカムでした。後半にちょいちょい違和感を感じ、終盤で一瞬ダレるも、ラスト二行で背筋が伸びた。予想外の曲球をまともに受けて、しばし事態がのみこめない。これは再読したくなる。違和感の原因がわかってスッキリするもあまり喜べない。なぜならここから本当の物語が始まったからだ。救いようのない悲恋、絶望的な男女の心の闇──これはやっぱりノワールだわ。正直、最後の二行は目にしたくなかったかも。
余談だが、読書中何度も空腹感に襲われ、当時の通貨価値がわからないので何かにつけ「安すぎる…」と唖然としてしまった。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
海外ミステリ
- 感想投稿日 : 2016年11月26日
- 読了日 : 2016年11月26日
- 本棚登録日 : 2016年11月26日
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