デンマーク幸福研究所が教える「幸せ」の定義

  • 晶文社 (2018年11月26日発売)
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ワークライフバランスや国民幸福指数という言葉がいつ始まったのか、なぜここまで重要視されるようになったのかが気になったので。

一個人による幸せになるためには~といったハウツー本じゃない本が読みたかったので、これは内容も初心者に分かりやすく、リソースとなる研究文献も掲載されていて良かった。
所々、デンマーク愛に溢れているけど(笑)
さすが幸せ指数No.1の国。

○幸福の定義
今でも問われ続ける議題。移ろいやすく、時代と共に概念は変化してきた。

古代ギリシャ(B.C480年)のヘロドトス著「歴史」のソロンとクロイソス王の話が初とされる。
「幸福かどうかは亡くなって初めてわかる」

後、アリストテレスが包括的な理論を展開する。
幸福は善に連なるものという考え。
「幸福は現世で最も優先されるべき目的である」
→快楽や愉しみ以外に、家族や友人、社会と繋がることが幸福であると定義
※個人の欲望を抑えたほうが良いという概念は、仏陀の教えと似ている

別途エピクロスが、人間の本質的に幸福は快楽を追い求めるもの(痛みや不安を避ける)と定説をあげる
→この説がどこかで快楽追及の免罪符にされ、刹那的な快楽を追う人をエピキュリアンと今では言うそう。

古代ローマ A.C300~キリスト教の普及により、幸福は現世にないという概念が伝わる。
現世の行いによって、天国で永遠の幸福が与えられるという手法(だから、生きてる間は清貧で、隣人や家族を大事にし、勤勉でなくてはならない)

古典主義(13世紀~)アリストテレスの理論の発掘
幸福は現世にないというキリストの教えと、現世で優先されるのが幸福という理論がぶつかる。

トマス・アクィナス修道士(イタリア1225~)の著書で、人間の幸福は現世にもあるが、あの世の幸福は比べ物にならない、古代ギリシャ時代はキリスト誕生前なので、彼らがこの概念を知らないのも無理はない、と結論付け、(無理矢理)紐づけている。

現世の幸福について議論が許される風潮になり、美術品や物事の考えに、現世の幸福追及が見え始める。
ex.モナリザのほほえみ→神ではなく生きている現世の女性の幸福を表現?
※アルカイックスマイルなのは、古代ギリシャ風を意識したのか、もしく幸福を普通の女性で全面に表現するのにためらったのだろうか?


ジョン・ロックの幸福追及という概念(幸せ、喜び、快楽を追い求める権利を持つ)
1776年、アメリカ独立宣言で使用される

↓幸福を追い求める権利があるのに、なぜ私は幸せじゃないんだろう?という疑問が生まれる

↓19世紀 みんな平等が幸せなハズだ、共産党の思想の始まり

↓大失敗

↓20世紀 資本主義の中、幸福についての追及が、哲学者から心理学、社会学、経済学、政治学者に変わりつつある

1968 ケネディ・ロバートの演説
「アメリカはずっとものの量で測るようになっている。…GDPには大気汚染や無秩序な伐採や無計画な都市開発、ナパーム弾や防弾車も含まれるが、子供たちの教育の質や遊ぶ喜びは含まれない」

1998 精神科医マーティン・セリグマンによるポジティブ心理学の提唱(心理学者はうつ病など、心の負の面にしか注目しない。心に関するあらゆる面を理解するべきで、人生を良くすることにも焦点をあてるべき)

良い人生、ウェルビーイング、生活の質、生活満足度など、幸福を示す概念が色々と解釈され、表現されるようになり、ポジティブや幸福のあらゆる著書や研究論文の数が激増する

↓2010 英国首相キャメロンが国家の繁栄の基準に幸福度調査結果を含めると宣言。2012年に調査報告

↓2011アラブの春事件により、GDPの成長率と政治の安定の相関性はないと国際社会が認識し始める。(抗議デモ、反政府活動を行った国々のGDP成長率は増加の一途だったが、国民は全く満足していなかった)

○幸福研究による社会的利益の顕在化
 研究が進む中、幸福度が高いほど社会全体に良い作用が出ることがわかってきた。

 「社会的利益」
  ・幸福度の高さと健康に相関性あり
   →医療費支出の減額
  ※ただし幸福度No.1デンマークもうつ病患者は人口5%はいるし、抗うつ剤の処方も多い

  ・社会的貢献(ボランティア活動)する人は幸福度が高い傾向(2008、フランチェスカ)
   →ボランティア活動が生む相互補助による福祉費の抑制と経済活動への貢献が期待

 「経済的利益」
  ・幸福度が高い社員の病欠日数、離職率が低く、生産性が高い(2007、job satisfacation undphycological well being)
google社ではチーフ・ハピネス・オフィサーなる役職があり、マインドフルネスに関する講座を社員向けに開き、社員の幸福度を高めている

  ・幸福な人は自信があり、新しいアイディアを思いつきやすい傾向にある(2011,9、NewYorkTimes)

○幸福を1つの指標で量るのは難しい
 GDPなら年収はいくらで量れるが、幸福度は「今どのくらい元気?」といったあいまいかつ主観的で流動的なもの

 専門家の合意項目(教育、住居、経済、健康、環境)を指標にしている国が多い。
あとは20世紀から積み上げてきた研究結果と幸福度調査の積み上げでできるビッグデータ(あのギャラップ社もやってる!)を活用することで、精度はあがるとみている。

○幸福を感じやすい遺伝子や年代
アメリカの双子研究により、ポジティブかどうかは50%は遺伝要素ということが発表。
一卵性双生児と二卵性双生児で、産まれてすぐ別々に養子に出された双子の幸福度を調査
→生活レベルや環境に差があっても、人生における満足度の差は、一卵性双生児に限り少ない事がわかった

また、幸福度は青春時代と70オーバーが高い
→40代が一番低い
子育てと仕事のキャリアの重圧が一番キツイ時期だから?鬱病の発生率もこの年代が一番多い。
著者の見解では、上記のプレッシャーに加え、心理的にも身体的にも夢を見ることが難しい時期だからでは。
デンマークの決まり文句「44歳、中年太り、人生下り坂」(確かに中間管理職で、一番ツラい立場…そして体力や容姿も衰えて、俺だって私だっていつか…本気でやれば…と思い込めなくなるよなぁ)

○幸福の負の面
人間である限り、どうしたって比較してしまう面がある。
・短期的幸福の誇示的消費(高級車、ブランド服、宝石、主婦(働く必要が無いとアピール))
→環境に配慮した車や家電を買うことは、自分が意識が高いと思われたいという欲も少なからずある
→成功志向…社会のより高い位置で周りに尊敬されたい
→色白美人…畑で日に焼ける生活をしていない=成功者の概念。最近の欧州では、日に焼けてない=ずっとオフィスにいるという新しい価値観もあるようだ。

マズローの5段階欲求の4番目だね…人間の本能的な欲求…それだけ承認を求める人が増えたってことは、衣食住に困らず平和になってきたって事なんだろうけどね。

人間は比較対象を自分より″ちょっと″上の人に設定する傾向があるので、いつまでも幸せを感じにくいそうだ。
Facebookの利用頻度が高い人ほど幸福度が低いそうだから、目で見えない脚色された世界と自分を比較するのはやっぱり不毛な事なんだなー。
これからもSNSとは適度な付き合いで行こうっと。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教養・社会
感想投稿日 : 2020年9月11日
読了日 : 2020年8月31日
本棚登録日 : 2020年1月15日

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