時代の目撃者: 資料としての視覚イメージを利用した歴史研究

  • 中央公論美術出版 (2007年10月1日発売)
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感想 : 2
5

『イタリア・ルネサンスの文化と社会』に続いて,バークの本を読んだ。『イタリア・ルネサンス』が初期の作品だったのに対し,本書は原著が2001年でかなり新しい。本書はとても読みやすく,なかなか面白かった。何となく,読む前から抱いていたこの歴史家に対するイメージがかなり正しかったことを確認する読書だった。歴史家はけっこう国民色がある。フランスはアナール学派の影響が強く,アラン・コルバンなどの最近の歴史家を取ってみても,その歴史記述はとても真似することのできない職人技というか芸術色が強いといえる。それに対し,米国のロバート・ダーントンやイタリアのカルロ・ギンズブルクなど,それぞれ独特の雰囲気がある(といいつつ,米国やイタリアの歴史家を複数知っているわけではないが)。それに対し,英国のバークはなんとなく,クリアで明晰,歴史の王道という気がする。
といっても,この2冊とも方法論としては独特のものがあり,個性があるのだが,論の展開や文体は凝ったところがなく,すーっと頭に入ってきやすい。といっても,目次を示してもいまいち分かりづらいかもしれない。

序章:視覚イメージの語るもの
第1章 写真と肖像画
第2章 図像学と図像解釈学
第3章 聖なるものと超自然的なるもの
第4章 権力と抗議
第5章 視覚イメージを通して見る物質文化
第6章 社会の姿
第7章 他者のステレオタイプ
第8章 眼で見る物語
第9章 目撃者から歴史家へ
第10章 図像学を超えて?
第11章 視覚イメージの文化史

本書は第2章のタイトルにあるように,パノフスキーやヴァールブルク学派流の文献を多く参照している。しかし,芸術作品の意味を歴史的文脈のなかで解釈しようとする美術史とは違って,あくまでもバークは歴史学の範疇で図像資料を扱おうとするのだ。確かに,私が読むような歴史書には多くの図版が掲載されていて,本文の歴史研究の補足として用いられているが,図版そのものの分析はもとより,解説すらろくについていない歴史書はとても多い。
それに対し,本書はそうした図版が歴史資料としてどれだけ利用できるのかということを素朴に探求したものである。かといって,あまり明晰ではないパノフスキーたちの図像解釈学に対し,それを明晰な方法論レベルで議論をしているのが本書の魅力。地理学でこの方面の研究を進めていたコスグローヴの編著も引用されているが(さすがに訳者はこの本の翻訳が出ているのは知らなかったようだ),地理学者たちはあくまでも方法を借用したにとどまって,それを洗練させることはできなかったと思う。といっても,バーク自身も第10章のタイトルにも示されているように,何かしらの分かりやすい方法を提示しているわけではないのだが。
バークはルネサンスを中心とした時代の研究者であるが,第1章からも分かるように,本書では現代までいたる連続性をかなり意識している。ある意味では現代の視覚イメージ(なかにはジュディス・ウィリアムスンの『広告の記号論』への言及もある)の歴史的起源を探ることも一つの本書の目的であるともいえるのかもしれない。そんな感じで,本書は歴史研究者にとって有用なだけでなく,いわゆるヴィジュアル・カルチャー研究者にとっても非常に役に立つ本である。ちなみに,文献一覧のなかで,私でも知っている翻訳本を挙げていないものが6冊もあったのはちょっと気になった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2011年7月25日
読了日 : 2011年7月25日
本棚登録日 : 2011年7月13日

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