行動経済学の一分野「幸福の経済学」を専門とする著者(青山学院大学教授)が、幸福学の最前線を紹介する本。
行動経済学自体、経済学と心理学を融合した学問だが、「幸福の経済学」はさらに学際的で、心理学、社会学、神経科学(脳科学)などとも密接な関係がある。
本書は、それら諸分野の約150本の最新論文を参照し、まとめ上げたもの。
……というと難しそうに思えるかもしれないが、実際にはすごくわかりやすい。多くの図表を駆使し、項目ごとに「まとめ」をつけるなど、わかりやすさへの配慮が幾重にもなされているからだ。
また、研究トピックの紹介についても、一般人の目を引くものを優先して選んでいる感じ。
たとえば、美容整形を受けた人の幸福感がどれくらい改善されるかなどという、ある意味下世話で身も蓋もない話が、研究に基づいて紹介されるのだ。
そして、タイトルに「実践」とあるように、これは「どうしたら幸福感が増すか?」の具体的Tipsを数多く集めた実用書でもある。
たとえば、「ポジティブな感情を持てるように、自己をコントロールする訓練」として、「週に1回、その週を振り返って、よいことを五つずつ書いていく」ことが推奨されている。
「感謝の気持ちを記す日記をつけましょう」というのは、嘘クセー自己啓発書にもよく書いてあること。ただ、本書はそれが効果が科学的に立証されていることをふまえている点が違う。
それ以外にも、本書には自己啓発書的な記述がけっこうある。ただ、それらがエビデンスに裏付けされている点が、一般の自己啓発書とは違う。
いわば、〝エビデンスのある自己啓発書〟なのだ。
ただ、著者が行動経済学の研究者であるわりに、経済学にまつわる記述は少ない。それを期待した読者にとっては肩透かしかも。
- 感想投稿日 : 2020年7月30日
- 読了日 : 2020年7月30日
- 本棚登録日 : 2020年7月30日
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