「中古典」とは、「中途半端に古いベストセラー」を指す著者の造語。
「古典」と呼ぶほど古くはないが、将来「古典」と呼ばれるかもしれないし、忘れられた本になっていくかもしれない……そんな状態にある本のことだ。
紀伊國屋書店の季刊広報誌で、14年間も連載されていたというコラムの書籍化。1960年代初頭から90年代前半にかけてのベストセラーから、著者が選んだ48冊が俎上に載る。
〝昔のベストセラーをいまの視点で再読してみよう〟という本なら、ほかにもいろいろある。たとえば、岡野宏文・豊崎由美の『百年の誤読』などが挙げられる。
『百年の誤読』は対談集だし、俎上に載るのが20世紀100年間のベストセラーであるという違いがある。が、取り上げられている作品が本書とわりと重なっているし、スタンスも近い。
そもそも、「ベストセラー再読」というのは、おじさん雑誌の書評欄などでありがちな企画だ。
企画はありふれている。中身の勝負なのである。
で、中身はどうかといえば、さすが斎藤美奈子、いつもながらうまい。「どういう本か?」という紹介は手際よく、随所に軽快な笑いをちりばめ、要所要所にハッとさせる卓見がある。
小説、ノンフィクション、エッセイなどさまざまな本が取り上げられているが、文芸評論家だけあって、小説を取り上げた回がいちばん面白い。
たとえば、『スローなブギにしてくれ』や『桃尻娘』の回は、それぞれ片岡義男論、橋本治論として読めるだけの鋭さがある。
ただ、「斎藤美奈子ならこの本はけなすだろうな」と予想がつく本(『ひとひらの雪』『気くばりのすすめ』など)は予想どおりの角度でけなしていたりして、全体にやや予定調和的。
「ベストセラー再読」の本として虚心に読めば満点だが、斎藤美奈子の著作としては平均的な出来なのだ。
- 感想投稿日 : 2020年12月22日
- 読了日 : 2020年12月22日
- 本棚登録日 : 2020年12月22日
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