心理学者の著者(富山大学教授)が、心理学という学問の「いま」を概観した心理学入門である。
著者は、世にあふれる「心理学」の中から、俗流心理学、擬似科学としての心理学を排除し、“科学としての心理学”だけを腑分けしてみせる。「心理学など、科学とは呼べない」と批判する向きが多いことを承知のうえで、“そうではない。科学とは呼べない俗流心理学が跋扈しているのはたしかだが、真の心理学はまぎれもない科学である”と言う本なのだ。
目に見えない心というものを科学的に研究するため、心理学がどのように科学性を担保しているのかを、著者はさまざまな研究手法の紹介を通じて明らかにしていく。
そのうえで、心理学によっていま何がわかっているのかが、遺伝・記憶・意識とは何か・人間と動物の心の違いなどのテーマに沿って、わかりやすく紹介されていく。
本書の内容は、心理学を本格的に学んだ人にとってはわかりきったことばかりなのだろうが、シロウトの私には目からウロコの連続だった。
以下、目からウロコだった一節をいくつか引用。
《発達心理学というと、発達についての心理学だから、子供の研究をすると思うかもしれない。これは誤解である。(中略)日常用語では発達は幼児や子供が成熟する意味である。しかし、心理学では人が生まれてから死ぬまでの変化がすべて発達である。つまり、どんどん賢くなっていくのは発達だが、老化して痴呆化してしまうのも発達である。》
《ほとんどの研究は、子育てが非常に小さな影響しかないことを示している。
心理学者の大部分は「子育て神話」を信じていない。それにも関わらず、育児態度の研究が繰り返されるのは、子育てが重要だからである。影響力はたかが一~二%である。それをどう考えるかは、各人の価値観に依存している。》
《トラウマが抑圧されるという証拠はなく、回復された記憶が真実であるという証拠もない。もちろん、精神分析の抑圧や解離の概念で、説明する理由もない。まだ、論争は続いているが、現在までのところ、科学的根拠はほとんどない。そもそも、トラウマはよく記憶されるという証拠の方が多い。忘却によってトラウマを克服するという仮説を支持する研究も皆無である。》
《WHOで統合失調症に関する国際研究を行なったところ、うつ病の概念はイギリスで広く、アメリカでは狭かった。アメリカでは、イギリスでうつ病と診断された患者の五九%しかうつ病と診断されなかった。逆に、統合失調症の概念はアメリカでは広く、イギリスで狭かった。》
ためになる本だが、各章冒頭に著者の個人的な思い出話が書かれているのは余計。自慢話にしか思えず嫌味な部分もあるし。
あと、終章で著者は臨床心理学を執拗に批判しているのだが、そこだけが全体から浮いている印象を受ける。
《臨床心理学は人気があるが、その内容は特定の学派の心理療法やカウンセリングが中心で、実力や実態は、素人心理学からそれほど離れてはいない。(中略)早急に、学問的水準の底上げが必要であろう。》
……という具合。臨床心理学(者)に何か個人的な恨みでもあるのだろうか、と勘ぐってしまう(笑)。
- 感想投稿日 : 2019年3月24日
- 読了日 : 2010年1月23日
- 本棚登録日 : 2019年3月24日
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