売れっ子プログラマーにしてアルファブロガーでもある著者が、プログラマーとしての知識と経験を援用して書いた「仕組み本」。プログラマーは仕組み作りのプロだから、その視点から仕組み本を書くという企画そのものが卓抜だ。
「仕組み本」とは、最近数多く出版されている「仕組み仕事術」のたぐいのこと。
著者は「まえがき」で、従来の「仕組み本」の内容は「なまぬるい」という。なぜなら、それらの本の主張は「仕組み化で効率を上げよう」ということに尽きるが、仕組み化の「負の側面」には目をつぶっているからだ、と。たとえば自動車は人やモノを速く遠くへ運ぶための仕組みだが、同時に大量の交通事故死者を生み出す仕組みでもあるのだ、と……。
また、既成の「仕組み本」は仕組みのプラス面についての追求も甘い、と著者はいう。
そこまで言うわりには、本書の内容も大したことないなあ、と感じてしまった。
とくに、前半は退屈。
たとえば、仕事の中の無駄なくり返しを「仕組み化」して効率を上げよ、と著者はいうのだが、それは「仕組み化」などというまでもなく、あたりまえの話ではないか。
たとえば、“何度も同じ内容の文章を打つ必要があったら雛形として保存しておき、宛先などを入れ替えて使う”という程度のことは誰もが無意識にやっているわけで、「仕組み化」ってほどのことじゃないだろう。
著者は、「仕組み作りが仕事になる」これからの時代には、「既存の仕組みを回す仕事を勤務時間の20%で終わらせ、80%を新しい仕組み作りに当てる」必要がある、と説く。
だが、そんな芸当ができるのはよほど恵まれている人(著者のように)であって、勤め人かフリーランサーかを問わず、大部分の労働者にははなから無理な話だろう。
いちおう本書には「仕事を20%の力でこなす仕組み」を作るコツも書かれているのだが、それらのコツもさして画期的なものには見えない。「勤務時間の20%」で仕事を終わらせるようになるとは、とても思えないのだ。
いろいろケチをつけてしまったが、第5章「仕組みと生物」だけはよかった。
この章は、“38億年かけて進化してきた生物という仕組みの中にこそ、仕組み作りの要諦がある”との主旨で、生物の仕組みの特長を仕事の仕組み作りに援用しようとする内容。実用性はともかく、読み物としてなかなか面白い。
以下、この第5章から、印象に残った一節をメモ。
《生物の仕組みは驚くほど“非”効率的にできています。
たとえば、1匹のマグロは卵を数万個以上産みますが、そのうち成魚になるのは0.1%以下と言われており、残りの卵はほとんど別の生き物(マグロを含む)のエサとなってしまいます。(中略)
生物の凄みは、個体や細胞をいとも簡単に犠牲にして、仕組み自体を生き延びさせてきたことにあります。》
《最適でなくても十分であればいい、というのが生物の基本戦略のひとつと言えます。
このことは、必要以上に仕組みを最適化することへの警告とも取れるかもしれません。高度に最適化され過ぎた組織は、環境の変化に対して脆弱である可能性があるのです。》
《国としての歴史の浅い米国に、なぜあれほどの知恵が集まっているのか。そのひとつの理由として、記録に対する米国人の考え方があるように思われます。米国人は、とにかくあらゆることを記録しようとするのです。》
それから、「これは重要な指摘だ」と感じたのは、「創発」(※)が生じやすいようにするには、最初から完成形を作ろうとするのではなく、仕掛品(しかかりひん=製造途中の製品)をたくさん作っておくことがたいせつだ、というくだり。
※組織等において、個々の部分が勝手に進化を遂げ、予測できない複雑な相互作用を生み出すこと
《自分の得意分野についてとことんまで突き詰め、あと1ピースが揃ったら完成するという状態にしておく。これが「仕掛品を作っておく」ことにほかなりません。
科学技術におけるブレークスルーは、ほとんどこれで説明が付きます。》
これは、アイデアを生む極意としても使えそうだ。
- 感想投稿日 : 2019年4月1日
- 読了日 : 2009年5月19日
- 本棚登録日 : 2019年4月1日
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