漂流教室 (6) (小学館文庫 うA 16)

著者 :
  • 小学館 (1998年11月17日発売)
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感想 : 44
5

『漂流教室』6巻、ついに完結の最終巻。
今回は最終巻のためネタバレ防止機能で。

・女番長
・レジャーランド
・カニ◯◯◯ム
・馬内守也
・そして関谷さま!!
・西さん
・イマジネーション

・女番長……まだ回収されてない伏線が強盗と女番長だなーと思いながら読んでたら、ちゃんと出てきました。

・レジャーランド……最終巻レビューを書く前に、がんばって『ジュラシックパーク』のレビューを書いたのはここにつながるからです。

マイケルクライトンの『ジュラシックパーク』の原点である『ウエストワールド』、レジャーランドの描写がそっくり。映画は1973年公開と『漂流教室』連載中なので、楳図先生は影響されたのかも。しかし事前に膨大なプロットを書いたそうなので偶然かも、それはわからない。
『ウエストワールド』には恐竜の世界はなく、それが『ジュラシックパーク』になるのだが、その前に『漂流教室』で先取りしていて、恐竜が出てくるのが面白い!!

・カニ……もう、何も言えません。序盤の咲っぺのセリフで「ニューギニアで……」ときちんと書かれていた。

・回収されてなかったもうひとつの伏線、強盗。ついに出た。馬内守也の顔…………こ、これは楳図先生ご本人がモデルじゃないの!?とぶったまげました。

関谷のモデルが寺田ヒロオ説というのは、あくまでただの説だからねー、話半分ぐらいであまり信じないように……と思っていたが、馬内=楳図先生と考えると寺田ヒロオ説に信憑性が出てきて大変面白いし、つい深読みをしてしまう。関谷=寺田ヒロオ、馬内=楳図かずおと仮定して妄想してみる。

この作品では関谷は「非常に利己的・自己中心的な大人の汚さの全てを鍋で煮詰めたような象徴」として描かれている。対して、馬内も別に善人ではなく「強盗」で、悪人。
馬内は右目と右腕を「持って行かれた(ハガレン)」状態。目は観察するためのもの、右腕は漫画家として表現するためのもの。馬内=楳図先生とすれば、現代にいながらにして未来を見てきたのが作者で、しかし右腕もないから絵として表現できない。
その馬内、悪人であり大人であり、メタ的には『漂流教室』の神である馬内が、最後には関谷から子供たちを救うのである。

寺田ヒロオさんという人は、良し悪しは別として「優しい作風」だった。しかし子供が読むものとしてふさわしくないと、他の漫画家に苦言を呈するような人でもあった。このタイプの人がさらにラジカルになれば、「表現規制派」だと思う。

対して楳図先生の表現は、恐怖でありバイオレンスではあるが、『漂流教室』を読むと、これからの未来に生きていく子供たちに対してのメッセージがめちゃくちゃ強い内容だった。

現実の世界は、戦争もあり、冷戦下の核戦争の恐怖も、公害問題も、殺人も、いじめもある辛いもの。それを覆い隠して逃避するだけの「砂糖菓子のような作品」と、荒廃した世界で子供たちが惨殺されたり凄惨な殺し合いをするが、その中で力強く生きていく、現実世界を投影した作品。どちらがより子供たちに寄り添えるのか。私は後者だと思う。関谷vs馬内からは、ついこういう構図を深読みしてしまう。

・関谷さま「おれだーっ!!」
先に書いたが、関谷はこの作品では一貫して悪役であり、ブレなかった。最後の方では、嫌いどころか大好きなキャラクターになっていて、「おれだーっ!!」には拍手喝采。
エヴァの冬月の「最後の敵は同じ人間だったな」を思い出す(カヲル君の次の敵使徒は人間)。まあ『漂流教室』の場合、敵はほとんど人間だったが。最後の敵は人間だと、やはり『デビルマン』の最後の方のアレであり、『寄生獣』の最終話であり、エヴァ。

・西さん
西さんと咲っぺ、この三角関係もレイとアスカっぽい。大友君が絡むかどうかの違いで、エヴァの方はエロゲのハーレムものではあるが。『漂流教室』の恋愛描写、咲っぺの方は序盤から描写があって良いのだが、西さんのくだりは些か唐突に感じる。ただし、「西さん=母」だったりする。「レイ=ユイ」。

・イマジネーション
今回『漂流教室』を読み返してみて、楳図先生のイマジネーションの凄さには圧倒された。同時期の『日本沈没』にも「直感とイマジネーション」という名ゼリフがあるが、SFとはイマジネーションの産物である。現実には未だありえないことを表現する。
しかし、現実には「ありえないこと」が数多く起こる。ベルリンの壁崩壊、バブル崩壊、阪神淡路大震災、オウム真理教のテロ、アメリカ同時多発テロ、東日本大震災、新型コロナウィルス……誰が予測できただろうか。これらの出来事の直前まで、「この日常が連続する」と思っていた記憶が同時に蘇る。
ロシアによるウクライナ侵攻、我々日本人、いや世界中のほとんどの人が「本当にやりはしないんじゃないの?」と思っていたはず。

脳科学の番組を見ると、イマジネーションは「人間に与えられた最大の武器」だと思う。良くも悪くも。それをどう使うかは人間次第。
小説やマンガも含めた芸術作品は、全てイマジネーションの産物である。私も含めて、読書の良さや、読書をする人に期待するところはそこだよなあと、『漂流教室』を読んで最も考えさせられた点でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 漫画
感想投稿日 : 2022年4月28日
読了日 : 2022年4月20日
本棚登録日 : 2022年4月20日

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