実力も運のうち 能力主義は正義か?

  • 早川書房 (2021年4月14日発売)
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感想 : 57
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 サンデル先生の話題の本を遅まきながら読んだ。能力主義(メリトクラシー)の一見すると公平・平等に感じられる思想の孕む問題点を丁寧に論理的に考えていく。自分が受験生であった20年以上前から、能力至上主義や勝者と敗者の格差は存在していたし、自分が親世代になって(地方と都会の差もあると思うけど)、その傾向に拍車がかかっていると感じることも多い。では、社会をよくするためにはどうすればいよいのか?ずっと悶々として進んでいくうち、ようやく第7章「労働を承認する」を読んで腑に落ちる。労働の尊厳を取り戻すために「共通善」の考え方を持ち出すのは、これまでの彼の著書の中でも見られたことだが、「経済において我々が演じる最も重要な役割は、消費者ではなく生産者としての役割である」という一文が表すように、「生産」の意味を問い直す時が来ているように思った。多分、それは、クリエイティブであることではない。目に見えない価値、信頼(関係性)、人脈、そしてコミュニティ。金融にこれだけの価値が偏在しているのは「目に見えるもの」であり「消費」に必要なものであるからに他ならない。
 自分の労働は、何を「生産」できているのか?それを常に問いながら、毎日の労働と向き合ってみると良いのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 思想
感想投稿日 : 2021年11月23日
読了日 : 2021年11月23日
本棚登録日 : 2021年11月14日

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