華麗なる交易: 貿易は世界をどう変えたか

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2010年4月1日発売)
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経済の発展に伴う上で貿易が果たした役割やその過程にある社会の要請や文化、技術等の複合的な関連全般に興味を持ち手に取る。


貿易の歴史をシュメール人の時代から現代まで紐解き、時系列で紹介し、現在のグローバル経済が抱える問題点の根底にある背景やその解決策を明示している。


大航海時代には未知なる商品への好奇心や貿易による莫大な財を獲得する野心等から、商品の独占のための拠点をめぐる争いやその流通に必要な諸要素(航海技術や損害保険、金融システム)の発達が行われてきた。
これらを要因として、あらゆる場所で生産が可能になり、より低価格な商品が流通することで生じるグローバリゼーションに関する問題について述べている。


これらを通じてアヘン戦争や南北戦争など、歴史上に起こった事件の貿易との関連性が詳細に書かれており、新たに知ることが多かった。



個人的に最も興味をもった点


1.オランダが世界で覇権を握るにいたった金融システムの発展の諸要因

オランダが15世紀ごろにスパイス貿易を独占できた背景には世界で当時最も優れた金融システムであると述べる。
航海に必要な資本を投資家達から募るために株式を発行したり、船体にかけられた損害保険によるビジネスがあり、それを基に航海技術等の進展の元になった。


その金融システムの発展の原因について関心をもった。
前提としてある、それらをきちんと管理する安定した政治だけでない。
オランダは、当時のヨーロッパで主流であった封建領主性ではなく、農民が自分たちで自分の土地を管理するような体制であった。
オランダは海抜より低い土地にあるため、水害を防ぐための設備や管理をボトムアップで行う必要があった。
そのため国や領主からの運営費を授かっており、それぞれの農民達が小富裕層であった。

株式のようなリスク分散を目的とした金融商品はこのような地理的、文化的要因によるものであるということに関心が湧いた。



2.保護貿易主義vs自由貿易

本書籍の中で特にメッセージ性の強い部分であるように感じる。
技術の進歩によって生産性が向上し、他国で生産した商品の価格が抑えることができ、その恩恵を受けようとする自由貿易支持者と、自国の商品の価格がそういった低価格・高付加価値を有する代替商品によって国内市場を席巻されることを恐れ、関税によって被害を被るのを防ぐ人々との間の軋轢は過去の歴史(イギリスの綿貿易やアメリカのサトウキビの貿易による南北戦争等)で幾度となく繰り広げられてきたと筆者は述べる。


どちらが自国の経済をより発展させていくのか。




本書では国内の労働者が減ることで被る被害よりも、貿易を自由に行うことで得られる国としての利益が上回るような事例を多く紹介している。

調査では19世紀以前の経済ではそういった保護貿易主義の立場をとった国の国内総生産と関税の高さには正の相関がある(らしい)
しかし20世紀から現在にいたるまでにはその関係が崩れ、自由貿易の立場をとった国のGDPは比較的に高い。


その根本的な違いは国内総生産のうち、貿易が占める割合が多くなっていることであるという。

もともと地理的に資源等が豊かな国(アメリカ等)であれば、国内市場で経済成長が見込めるが、ほとんどの国はそうではないし、
現在は低価格で多様な貿易財が世界中に存在するため、海外との貿易に対する依存はさけられない。

特に発展途上の国では人口の増加により、豊かな生活水準を維持するためには経済成長をよぎなくされるだろうし
そういった中で市場を解放することで経済が発展することは比較的自明であるように感じる。



現代社会でも問題視されているのは国内市場に他国の商品が流通することで、国内の労働者のような立場の弱い人々へ貿易上どう対処すべきかである。


現代の社会で極端な関税を持たない自由貿易が経済成長を促進する最良の選択肢であるとすると、
敗者を生むことで生じる格差や不平等から政治の不安定さ→投資が減る→経済成長の鈍化
という連鎖を避けるためにはどのようにすればいいのか。

著者らはこの問題に対しては自由貿易を廃止するよりは敗者に直接補償をすることが最良であるとしている。


根拠としてGDPの高い国の多くは社会福祉制度が占める割合も高く、雇用も安定しているからである。
もちろんこれらをどう実現するのがふさわしいかを何十年と議論を続けているわけである。



その他雑多な感想;


興味深いのは既得権威にすがるものはいつの時代も道徳や倫理観に訴えることが多いということであった。
国内の労働者が淘汰される、国を売った、神の教えに反する等。



古代からあったもの:売春、手数料、既得権威を保護する動き、新しいものへの興味、ステータス

個人的な意見では、関税が高く保護貿易主義である自給自足の経済でも、発展途上国が経済成長をしないわけではないが、経済成長貿易によって得られる別の要因によって貿易の促進自体が連鎖的に起こる



価値のある新商品(市場)に左右されて繁栄の仕方は決まっていることが多い


現在社会福祉政策が充実している国がなぜ成功しているかも別の側面から見ても腑に落ちた

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2014年11月3日
読了日 : 2014年11月3日
本棚登録日 : 2014年9月5日

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