ジェフ・ベゾス 果てなき野望

  • 日経BP (2014年1月8日発売)
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ベゾスもやはりパラノイアだった。
時代を代表する個性的な企業を率いた経営者には、MSのゲイツ、インテルのグローブやアップルのジョブスといったように偏執的な人が多いが、やはりこの人も同じだった。
今まであまり外に聞こえてこなかったAmazon CEOのジェフ・ベゾスの人となり、著名記者ブラッド・ストーンが徹底取材して書いており、とても興味深い伝記に仕上がっている。
内容は本書の解説を書いている滑川氏の連載記事(文末にURL)にあるので省くが、驚いたのはその偏執ぶりが今までの経営者よりも徹底しておりかつ広範囲に及ぶこと。
USAらしからぬ長期的展望に基づき赤字も辞さずに方針を貫き、かつマーケットまでそれに従わせてしまうこだわり方。
競争相手やパートナーに対してさえも、自社に有利となれば徹底的に利用する飽くなき姿勢。
アマゾン・マーケット・プレイスに出店したパートナーの売れ行きが良いと自社自身が同じ商品を売り出したり、ザッポスやダイアパーズに仕掛けたように相手を追い詰めて軍門に下して飲み込むさまなどは、読んでいてぞっとしてしまうほどのやり口だ。
Kindleで電子書籍に乗り出すときも、ほとんどの大手出版社を的に回しながらも強引に包囲網を崩していく巧みさには本当に舌を巻く。
最近の大河ドラマに例えてみれば、さながら半兵衛や官兵衛のような戦略眼を持ちながら、信長の非情さを持ってして実行に移す経営者と言ったところだろうか。
その上、社内には徹底的な倹約を説き、PowerPointは使わせず、ある意味恐怖政治的な経営のもとで多くの社員が耐えられずに辞めていく様は、信長以上の非情さにも感じてしまう。

当初は小売だけにFocusしていたようなアマゾンが、エコシステムのプラットフォームへと進化していくきっかけが、あのティム・オライリーから薦められたAPI整備というのも興味深かった。
ここからさらに進化したのが、いまやクラウド界を席巻するAmazon Web Services(AWS)である。
元々AWSは、アマゾンの小売プラットフォームが能力を余分に持っているので、その分をレンタル用のリソースとして始めたものだというのが、技術者の間でもよく言われていた話だと思う。
しかし本書によると、自社のプラットフォームの柔軟性を実現するために、コンピュータリソースを徹底的にプリミティブな要素・コンポーネントに分解して、それを管理するソフトウエアを作り上げていくことでAWS事業の可能性が提示されたことがきっかけであり、これに対してベゾスは「この事業も必要だからだ」という回答でGOを出したらしい。
我々外部の者が考えていたよりも、随分と積極的に踏み出した事業だったということだと感じる。
元々ソフトウエアのエンジニアとしても極めて優秀だったベゾスとしては、その長期的な展望を見抜く素質・性格のもとにAWSの事業性を確信したのだろう。
技術領域で生きてきた者としては、このあたりの記載には大いに興味をそそられたものである。

フィナンシャル・タイムズ紙とゴールドマン・サックスが共催する「ビジネスブック・オブ・ザ・イヤー2013」を受賞したということからも、本書は米国でも大きく注目されたらしい。
今やハイテク業界に無くてはならないエコシステムを創り出したアマゾンの成り立ちとCEOの人となりは、業界で生きる者にとって興味を引きつけてやまない内容である。
それをいまだ絶頂期であるこの時期に書物にしたことは、我々読者にとってもたまらない贈り物である。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140117/258370/?P=1

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2014年4月13日
読了日 : 2014年4月11日
本棚登録日 : 2014年4月11日

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