国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社 (2015年12月11日発売)
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感想 : 20
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日本人にとって他人事と思われがちな紛争について5つの理論的視座を地域とその歴史を通して対立の本質的要因を解いた本著はとても興味深かったです。正直、自分も意識的に注意しないと中東紛争など日本には関係ないと思ってしまっていた節がありました。しかし、他国(特にアメリカという超大国)と密接な関係を持ち、中国やロシアと地理的距離も近い日本こそ世界中の紛争に深く関係している事に気づかされ、事の重大さを思い知りました。今物議を醸している香港問題は米中対立や中国の東シナにおける台頭と拡張が挙げられていますがその背景にある地政学や勢力均衡、文明の衝突等の存在に文献のおかげで着眼することができました。
本著を通して普遍化した自由主義の①留保(韓国の立ち位置によって実現される勢力均衡やマッキンダーの理論を通して知った地政学)、②挑戦(中東混乱の根底にある西洋文明とイスラム文明の対立とその解決の有限性)、そして③欠陥(西洋的国民国家制度が馴染まない上に経済的不利で国際社会で行き詰まるアフリカ)について学び、その背後に自由主義を提唱し「明白な運命」を理由に拡張と侵略を正当化し成長を続けてきたアメリカの存在がある事が大変わかりやすく繋がりました。
そこで考えたのはまず成長と進歩についてです。アメリカの成長に対する執着は明白な運命という言葉と思想によって正当化された利己的な行動を促し、国際秩序を混乱させ世界情勢に悪影響を及ぼしてきたという点は以前から感じていました。しかし本著ではアメリカの上昇志向なくては限界を超えようとする存在が居なくなり、人類の発展をもストップさせてしまうと指摘されており、大変興味深く目から鱗でした。それもそれで困ると感じたと同時に、終盤の日本の格差問題の部分であるように「成長の限界を受け止める」事も必要なのではないかと考え、一度立ち止まって既存の問題を解決する事も成長なのではないかと思います。成長とは物事が大きくなる事と定義づけられがちですが、私は成長という言葉が持つ進歩の意味に着目すべきだと感じています。これまでは物事を大きくすればするほど新しい価値が生まれ社会は育っていました。しかし現代の世界に求められているのは拡大的な成長ではなく道徳・倫理の意味での成長、進歩なのではないでしょうか。
次に日本の外交について論じられている「曖昧さとの折り合い」の点について考えました。2章で言及されているように外交政策を通して達成しようとする目標に一貫性を大切にし、同時に目標達成の為に臨機応変かつ柔軟な対応が必要である為、時には曖昧な態度もとることが必要だという点に同意見です。日本の外交は曖昧な故に弱腰と批判されることが多いですが、批判すべきはその態度よりも外交目標の透明性さが故に起こる「軸」の欠如だと思いました。そもそも目標が不透明なのは目標がないからなのか、何を目標とすればいいかわからないのか、もしくはその他に理由があるのかは分かりませんがこの部分を明確にしない限り日本の外交は進展しないと思います。その目標に何を設定すべきか考えさせられ、香港問題や移民・難民問題を中心に日本もイギリスのようなバランサーとしての役割を担い実行する事はできないのだろうかとふと思いました。
また、地政学の重要さは分かったのですがその本来の意味について十分に理解できていないと感じ、更に学びを深めたいと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ゼミ
感想投稿日 : 2020年6月2日
読了日 : 2020年6月2日
本棚登録日 : 2020年5月24日

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