俺の妹がこんなに可愛いわけがない 黒猫if (1) (角川コミックス・エース)

  • KADOKAWA (2022年3月10日発売)
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感想 : 1
5

「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」シリーズが再開されるという知らせを聞き、出版されたサブヒロイン3人分の「if」ストーリーを読み、そしてそのコミカライズ版を今、読んでいます。このシリーズを、このコンテンツをずっと追いかけていた者として感無量です。ようやくTrueエンドに到達したから。

これをTrueと言うからにはGoodなりBadなりのエンディングがあります。それがラノベ本編の桐乃エンド。
何度も同じことを書いているような気がしますが、でも黒猫ifについて語るには欠かせないと思いますので、本編の桐乃エンドの評価について書いておきます。

ラノベの最終12巻で迎えたエンディングは、「納得がいかない」ものでした。
作者が意図していたかどうかわかりませんが、妹モノからハーレムものとなってしまった展開、サブヒロインの人気がメインヒロインを凌駕してしまいかねないキャラクター造形、人気が出たサブヒロイン「ルート」に入るという宣伝。主人公がサブヒロインと結ばれることを後押しする要素はこれだけありました。期待する読者が一定数出てくるのは必然です。
メイン、サブ、どちらのヒロインと結ばれても一定の批判が出るこの状況で、誰とも結ばれず、ハーレム状態のままフェイドアウトするいわゆる「ハーレムエンド」の誘惑に負けなかったことは、まず評価に値すると思っています。ずるずると引き延ばし、そしてそのままフェイドアウトしてしまった作品がどれほどあることか。

そして作者が選んだ結論は「俺の妹」の物語だから桐乃エンドでした。それが作者の描きたかった物語だったのであれば、やむを得ないでしょう。受け入れましょう。
決して「黒猫エンドでなかったからけしからん」と言っているわけではないのです。
――ただ、もしかして作者が望んだわけではないからもしれませんが、さんざん「黒猫エンド」を期待させるプロモーションを行ったのは反省すべきでしょう。特に「読者投票型のルート分岐シナリオ」で黒猫ルートに入った、と公表したのは最悪でした。ギャルゲの文脈で「ルート」というタームを使った以上、黒猫ルートに入ったのに黒猫エンドにならなかったら、それは間違いなくBadエンドなのですから。

それよりも、問題は肝心の「桐乃エンド」の中身です。血のつながった兄妹が合意して結んだはずの恋愛関係を「期間限定」で終わらせてしまったこと。
作中の京介の台詞どおり「近親相姦上等」の展開も、実は血が繋がっていなかったという超展開にもせずに、二人は兄弟に戻ってしまいました。
あれだけサブヒロイン達(黒猫だけでなく、あやせも、麻奈実も、加奈子も)に悲しい思いをさせておいて兄弟に戻るの?と憤慨していたら、さらに兄弟に戻ったはずの京介から妹桐乃への不意打ちキスのエンディング。
なにそれ。サブヒロイン達だけじゃなくて、桐乃にも悲しい思いをさせてるじゃん。桐乃は京介と結ばれることもなく、かと言って京介のことを思い出にして新たな恋に踏み出すこともできない。

仮にこれがギャルゲのシナリオだったとして、こりゃtrueエンドどころかgoodエンドですらない、間違いなくbadエンドです。

だから「納得がいかない」のです。
桐乃エンドなんだったら、ちゃんと桐乃と二人で幸せになって欲しかったのです。

この消化不良感は、例えばamazonでラノベ12巻のレビューを見れば感じ取れます(評価の★の数だけ見ても12巻だけほぼ1つ少ない)し、なにより次作の「エロマンガ先生」のメインヒロインを【義理の】妹にしている(もっとも、こちらでもサブヒロインがメインヒロインより魅力的になってしまい、メインヒロインエンドにしにくくてgdgdになってしまっているようですが…)ことから、作者にとっても思うところがあったに違いありません。

そんな悲しみを上書きできるはずの「if」シリーズ。
どうしてこんな企画が成立したのか、事情は知りませんが、「if」とは言え12巻の続きの13巻から始まる正規のナンバリング続編が読めると知って心が浮き立ったことは忘れられません。
読んでからわかったのは、PSP(携帯ゲーム機。作中で桐乃がよく持ち歩いて遊んでいました)で出たギャルゲ「俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル」の個別ルートのシナリオをリライトしたものであること、だから、ボリュームも多くないし新味もないものであること。でも「あやせエンド」を読めるんだったらそんなことは気にならないこと。
そして、同様の展開だろうと一歩引いてから読んだ「黒猫if」が想像を絶するほど理想の出来だったこと。
上巻が丸々新規エピソードで、「if」を十二分に活用した、非常に内容の濃いものでした。下巻も、桐乃との対決をさらっと流して、その分を京介夫妻の子供たちの描写に割いたとてもよいものでした。

ところが、次の加奈子ifの後書きで「if」シリーズは加奈子で終わりのようだということが判明しました。
ゲームのシナリオで、伏見つかさが執筆したのがあやせと加奈子であり、桐乃と黒猫は「監修」だったからあやせ、加奈子+ほぼリライトされた黒猫だけが出版されたということだと想像しています。
でも。黒猫エンドが読めればそれでいい、わけではない、ですよねえ。
責任取って、ちゃんと「桐乃if」までは書いてできれば「麻奈実if」も書いて欲しかった。


…と、こんな前提があって読むコミカライズです。
おそらく「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の新コンテンツとしてはこのコミカライズが最後になるだろう、と居住まいを正して読み始めました。

この巻ではそのラノベ上巻の前半、槇島遥と京介・黒猫が出会い、交流を深めていくところまでが描かれています。
気になる作画は森あいり。お名前は存じ上げませんし、かんざきひろとは少し系統がちがい、可愛いほうに振っている絵だとは思いますが、黒猫と遥は好感が持てる程度には可愛く描けています。あと、この巻では黒猫が結構たくさんお風呂に入ります。

ストーリーはほぼ忠実にラノベ版を押さえているようです。
ただ「あやせif」がゲームシナリオのリライトでかなり内容が薄かった分、ほぼ1対1対応でコミカライズできているように思われるのに比べ、黒猫ifは通常のラノベ並みの内容なので、やはり省略される部分は出てきてしまいます。
個人的には冒頭、京介の携帯が壊れるあたりからずっと付きまとっている「不思議感」が、特に遥が「空から降ってくる」あたりとか、時間が経つのが遅いとか、そんなあたりがもう少しコミックとして(台詞や説明書きとしてではなく)表現されていたらすごかったのにな、と思います。

巻末に伏見つかさの書きおろし掌編「或る姉妹の序幕」が掲載されています。
家族旅行で高坂璃乃と高坂悠璃が犬槇島へ向かうフェリーの船上で会話を交わすという、要するにラノベ15巻の前日譚です。
ラノベの黒猫ifを読んだときにも感じたことですが、この世界線の京介一家は、彼女ら双子姉妹+その下の弟+さらにその下の妹と、キャラ設定がずいぶん作りこまれていて、このまま終わらせたのではもったいない気がするのですが…。
インタビューで作者本人が続編をきっぱり否定してはいるのですが、作者はこのシリーズ同様収拾を付けかねている「エロマンガ先生」を、これからきちんと締めるつもりのようですので、どうでしょう、その後、スケジュールが空いたら。
Steins;Gateみたいに世界線がたくさんある設定にしちゃう手はどうでしょう。璃乃と悠璃が世界線を移動できる設定も十分受け入れられると思いますよ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 俺の妹がこんなに可愛いわけがない
感想投稿日 : 2022年4月3日
読了日 : 2022年4月3日
本棚登録日 : 2022年3月12日

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