コウノドリ(23) (モーニング KC)

著者 :
  • 講談社 (2018年6月22日発売)
4.29
  • (22)
  • (22)
  • (7)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 348
感想 : 13
5

テレビドラマ化もされた人気シリーズの第23巻。
四宮先生無き後のペルソナが始まってしまいました。この巻以降、四宮ロスを埋めるため(かどうかはわかりませんが)ちょこちょこと新キャラが登場します。この巻では臨床検査技師兼認定遺伝カウンセラーの真田ケンジさんが、かなり作り込んだ設定を背負ってペルソナにやってくるのですが、でも出番はこの巻で最後。結局、この巻以後の新キャラはいずれも四宮先生の強烈な存在感を補えず、消化不良のまま消えていきます。非医師でも周産期医療を支える様々な専門家がいて、それぞれが重要な役割を果たしているんだ、ってことを伝えたいのでしょうけれど、結果としてちょっと地味で小粒なキャラクターばかりになっちゃったようです。

この巻は「出生前診断」が収録されています。
以下このエピソードに一言。

「出生前診断」
伝えたいことは冒頭に出ています。
出生前診断が「命の選別」では、という声に対し、出生前診断を受けて中絶を決めた人でも、「お腹の赤ちゃんが21トリソミーと診断されてからもずっと迷ってたと思うんだ……」「本当は今だってまだ悩んで苦しんでいるのかもしれない」「それでも自分たちを責めながら短い時間の中で中絶することを決めたんたよ」「だから産科医がそれを「命の選別」なんて言ってしまうことはとても雑だし乱暴なコトなんだ」、ともうこれで全部でしょう。

あとは出生前診断を受けて悩んだ2組の夫婦、山根タケヒコ、ヒカルご夫妻(36歳)と神崎マリコ(ご主人は名無しです。コウノドリでは珍しいことです)ご夫妻が、悩み苦しみながらそれぞれの結論にたどり着くまでが描かれます。

いずれも高齢で妊娠した2人。山根さんは戸惑いながらも真田さんのカウンセリングを受け、夫婦で話し合い、結局「どうしたらいいかわからないから出生前診断は受けない」という結論にたどり着きました。

もう一人、神崎さん。
諦めたはずだったのに突然の妊娠、リスクの自覚、認定外のクリニックでの出生前診断、短い時間でたくさん調べ、考えた結果の決断、決めたはずなのに初めて感じた胎動と自然にそこに行く右手…。

これねえ、本当に他人事じゃありません。
自分のところもあまり深く考えずに受けたんです、新型出生前診断。
自分たちにとっても妊娠は想定外で、最初に産婦人科に行こうと決心する前からずっとジェットコースターに乗りっぱなしみたいな日々が続いていたので、ちょうど「日本でも正式にNIPTが受けられるようになった」というニュースを頻繁に目にしていたタイミングであったこともあり、何となく流れでNIPTを受けていました。
幸い、本当に幸いなことに陰性だったため、NIPTを受けたこと自体、そろそろ記憶の片隅に追いやられかけてはいましたが、子供の寝顔を見ながら、もしあの時陽性って言われていたら自分たちはどうしていたのだろうって、この巻を読んでしみじみ考え込んでしまいました。

東尾理子さんのように敢然と『羊水検査の結果がどう出ても、絶対に産むわけですし、産まない(中絶の)選択肢はありませんでした』と言い切るだけの気高さも、神崎さんのように決然として中絶を選んで後悔しようとしない強靭さも持ち合わせていなかった自分たちがしなくて済んだ思いを、作中で神崎さんが引き受けてくれています。

そして、ラスト「…よかったね」「ママが用意してくれたよ…」。用意してくれたのがお母さんじゃなくてママなのが泣かせます。生まれたばかりの子どもに語りかけるときには、ママ以上にピッタリの言葉はありませんよね。

ここに至って、冒頭のサクラ先生が言う「それを「命の選別」なんて言ってしまうことはとても雑だし乱暴なコトなんだ」が身に染みてわかります。




余談ですが、いなくなったばかりの四宮先生は、回想の中で(もしくは、サクラ先生の脳内議論の中で)きっちり登場します。サクラ先生に、カウンセリングは「産科医のやるべきことなのか?」と現実に即して反論する重たい言葉はレギュラーを張っていた頃と全く変わっていません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 鈴ノ木ユウ
感想投稿日 : 2020年5月25日
読了日 : 2020年5月25日
本棚登録日 : 2018年6月30日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする