ヒトの遺伝子改変はどこまで許されるのか ゲノム編集の光と影 (イースト新書Q)

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  • イースト・プレス (2017年1月8日発売)
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ノーベル賞確実と言われているCRISPR/Cas9に代表されるゲノム編集技術。
著者の石井氏はゲノム編集技術の乱用について警鐘を鳴らしている科学者の一人。
おおよそ3割が技術的な話に、残りは倫理的な話に分けられており門外漢が読むにはちょうどよいバランス

「交配」は同じ種同士で行う。エンドウ豆同士とか
「遺伝子組み換え」では遺伝子を導入するので種を越えた組み換えが可能。インスリンなどはかつて、患者一人が一年間に必要な量を得るためには70頭のブタを必要としたが、今では遺伝子組換えによって大腸菌がインスリンを作ってくれる。ただし、遺伝子を放り込んだあと、実際に組み換えが起こるかどうか、それも望んだ場所に起こるかどうかは運任せになるため、年単位の作業になることが多く、高等動物になるほど時間がかかる。マーカー遺伝子を使うため、マーカー遺伝子が他の遺伝子の発現に影響を与えたりするため安全性が脅かされることがある。

ゲノム編集ではナビ付きのDNA切断酵素を使う。これまではジンク・フィンガー・ヌクレアーゼ
(ZFN)やターレン(TALEN)が使われてきた。DNA切断配列認識部位と切断酵素が一体となった人工酵素であったが認識部位がタンパク質であったため、その設計に相当な熟練を要した。CRISPR/Cas9では認識部位がガイドRNA(gRNA)になっており、設計が簡単。

ゲノム編集のリスクとしては、オフターゲット変異がある。間違った部分のDNAを改変してしまい、がん抑制遺伝子に変異が入って腫瘍が形成されたという事故もこれまで何度か報告されている。著者は、ヒトのゲノム編集に対してもなんでも反対、というわけではないがリスクベネフィットをよく検討すべきだし、美容目的や生殖細胞の編集はそういう意味で無理だろうという。知能や身長など、100近い遺伝子が関連しているような形質をゲノム編集で操作しようとするのも現実的ではないという

ただし、現在、生殖細胞系の編集が明確に禁じられている国は7割程度にすぎない。残る三割程度は国の「指針」として禁じているに過ぎず、違反しても国の研究費助成が受けられない程度の罰則しかないそうなので、こうした国が一つでもある限りはデザイナーズベイビーの時代は不可避だろう。受精卵を冷凍で送るとPGDを行なってくれるサービスも既に存在しているようだし

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学
感想投稿日 : 2017年11月16日
読了日 : 2017年11月16日
本棚登録日 : 2017年11月16日

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