観光コースでないベトナム 新版: 歴史・戦争・民族を知る旅

著者 :
  • 高文研 (2011年4月1日発売)
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感想 : 7
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 ベトナムの首都ハノイ、まだ地雷が埋まり、山越えをする密輸商人がいる国境の町ドンダンといった北部から、朱印船貿易時代の日本人町が残るホイアン、チャンパ王国の歴史があるミーソン、ベトナム戦争時代に虐殺の行われたソンミといった中部、そしてホーチミン、ゲリラの使ったトンネルのあるクチ、枯れ葉剤が大量に撒かれ、現在はカオダイ教という新興宗教のメッカであるタイニンといった南部まで、ツアーの観光コースとは一味違う、ベトナム史やベトナム人の生の姿を感じさせるスポットを巡るエッセイ。ベトナムというテーマを扱うこと自体に思想の偏りが出てしまうのかもしれないけど、随所に左向けの記述が出る。
 断片的ではあるけれどもベトナムの歴史もよく分かる、読みやすい本。おれはもともと言語に興味があるので、言語や文字の話がやっぱり面白いと思った。清を破って「ベトナムのナポレオン」と呼ばれたグエン・バン・フエという人物は、「漢字を改造したチュノムを採用して民族意識を高め」(p.32)たらしい。それがフランスの植民地政策によって、「それまで使われていた感じや、漢字を変形させた独自の文字チュノムの使用を禁止し、字体をローマ字に変えたクオックグ(国語)を強制した。以後、一般のベトナム人は漢字を読めなくなる。」(p.80)ということらしい。あとホー・チ・ミンは有名だけれど、ホー・チ・ミンは「精神面でのベトナムの指導者」(p.40)で、ヴォー・グエン・ザップという「実戦での指導者」がいるということを知らなかった。ディエンビエンフーの戦いやベトナム戦争時代のゲリラ戦略、テト攻勢、サイゴン陥落など「すべて彼の軍略」らしい。ちなみにこの人物も「ベトナムのナポレオン」と呼ばれるらしく、ナポレオンはベトナムに2人はいるらしい。読むだけでも特に虐殺の話や国境付近の緊張状態の話などは生々しく、印象に残るものが多い。あとは、いくら仕事とは言え、よくこの人はこんなところに行って色んな人と話ができるんだなあ、とただただ感心するばかりだった。
 おれは今年1月初めに初めてベトナム旅行をし、ホーチミンに行った。3月末にはハノイに行く予定。ホーチミンよりも前に読んでおけばよかった。ベトナムの歴史を知るきっかけとしてとても良い本。(16/01/10)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年1月10日
読了日 : 2016年1月10日
本棚登録日 : 2016年1月10日

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