お皿の上の生物学

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  • 築地書館 (2015年9月9日発売)
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 めっちゃ面白くて楽しい.生物学を縦横無尽に駆けめぐり,関連領域にも話が飛ぶし,生物学とは関連しないようなトピックにもつながる.これぞ講義というライブ感でいっぱいだ.

 著者は,大阪大学大学院生命機能研究科脳神経工学講座教授.

 著者のうけもった講義は「基礎セミナー」.阪大1回生前期の,著者曰く五月病予備軍のための,「勉強へ再動機づけ」を行うための講義だそうだ.私なりにパラフレーズすれば,大学に合格して「いやいややっていた生物とはおさらばできると思っていたのに,大学でも自然科学の講義が必修でユーウツ」と思っている文系大好き青年とか,「これで生物学をバリバリ教えてもらえると思っていたのに,高校生物の復習かよ」とか思っている思い上がった生物大好き大学生とかに「やっぱり大学の授業はすごいゼ,ベンキョーしよ」とか思わせるための授業らしいです.

 四回分の実際に行った講義の再現と,もしこの講義を後期にも行うことになったらという仮定の下での講義予定が三回分,および学術論文の構成と書き方講座の一回分.

 味の話は光の三原色との比較からumamiや閾値の話題へ.色については,いろいろな色を持つ食材の話から青いバラの開発物語まで.その他その他.知らなかったことがいっぱいです.前記の文系青年には身近な話題で興味をあおり,生物学生には最新生物学へのイントロと参考文献により自主学習をさりげなく薦める.楽しくてためになる講義だ.いまからでも受講したいと切に思う.この年の阪大の新入生はなんと幸せなことだと思うが,本人たちにそれが分かるのは,卒業してからかもしれない.

 私の個人的な収穫は,日本の暦には太陽暦と太陰暦が混ざっていたこと.二十四節気は太陽暦なので,年によって季節がずれないし,旧暦でも現行暦でも,春分は同じ日であると.

 この本を読むことで,ある程度の生物学の復習ができるし,昔の高校生物に,どれだけ新しい事項が加わったかも分かる.お察しのとおり,新しく加わった事項には現象の物質的基礎が多い.メンデルの遺伝法則にでてくる,緑豆と黄色豆,丸豆としわ豆に関連する化学物質が登場している.生物化学がそれだけ進んだことの証明だろう.

 著者は,この講義の事を「生物学というより,雑学・エピソード・トリビアです」と謙遜されるが,むしろ生物学を身近な料理や食材にまで,咀嚼し落とし込まれた日々の精進の結晶であると思う.

2015.11

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 借り物
感想投稿日 : 2015年11月10日
読了日 : 2015年11月
本棚登録日 : 2015年11月8日

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