困った。日野啓三のどの作品を読んでも同じ感想になってしまう。晩年に書かれたこの作品集はより死の影が濃い。闇よりも暗く、黒よりも黒く。そこに一条の光が刺す恍惚に思念が深まる。夜の人けないオフィス街に林立するビルディングの狭間に(どこか古代都市のようでもあり岩窟のようでもある)ふと聳え立つ東京タワーの光り輝き、深夜の踏切で立ち止まり見つめる線路の鉄の表面を照らす蛍光の青白い光の筋、それはいずれ闇に消えようとも束の間の光の中で生命の粒子がざわざわ蠢き出す。この研ぎ澄む硬質の空気に身を晒す為に私は日野啓三を読み続ける。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本文学
- 感想投稿日 : 2015年1月30日
- 読了日 : 2015年1月29日
- 本棚登録日 : 2015年1月29日
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