カナリヤ殺人事件 (創元推理文庫 103-2)

  • 東京創元社 (1959年5月1日発売)
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本棚登録 : 203
感想 : 14
4

ブロードウェイの名花《カナリヤ》が、密室状態となった自宅で、
無惨な絞殺死体となって発見される事件が起こった。
室内は荒らされており、物取りの犯行かとも思われた。
浮上してきた四人の容疑者にはそれぞれアリバイがあったが、
いずれも不確かであり、怪しい点は見受けられるが、
これという決め手はなく、捜査は思うように進まない。
今回も、マーカムやヒースの主張をことごとく否定し、
独自の理論で事件を解明せんと試みるヴァンスは
容疑者を一堂に会し、ポーカーを行うことによって
心理的な側面から犯人を指摘しようとする。

ファイロ・ヴァンスが活躍するシリーズの第二作。
原題「The Canary Murder Case」。

ヴァン・ダインはこれで二作読んだことになるが、
やはり自分はヴァンスのキャラクターが好きなようだ。
はっきり言ってしまえば終始屁理屈をこねているだけの男で、
あれで犯人を指摘できなければただの嫌味なやつなのだが、
たまにそれなりに凄いところを垣間見せてくれるし、
根は真面目なようだから結局は憎めない感じになっている。

前回もそうだったが、ヴァンスという男はどうも、
「名探偵」という感じのしないキャラクターだと思う。
おそらく、彼の推理法が物的証拠や状況証拠を
足がかりにして推論を組み立てるものではないからだろう。
どうしても根拠薄弱に見えてしまって、
それは推理というより、ほとんどただの妄想にしか見えない。
もともと論理的というよりは妄想的である
本格ミステリというジャンルの中において、その色が一際濃い。

ただ、それは別に欠点となっているわけではなく、
むしろヴァンスが語るそのうさんくさい妄想が
真実を言い当てているというところに
アクロバット的な面白さが感じられるのだと思う。

あと、ヴァン・ダインはキャラクター造形が堅い。
今回の事件は、被害者は社交界では有名な美女であるし、
容疑者もそれなりに遊んでいる連中ばかりなのだが、
華やかさであるとか、放蕩な雰囲気というのは
読んでいてまったく伝わってこないのだ。
そのようなニュアンスの表現はされているものの、
ただ文章で説明してあるだけ、といった印象でしかない。
このお堅い感じが、ヴァン・ダインの特徴のひとつだろう。

中盤までは前作と同じような展開だったが、
後半はいくつかミステリらしいトリックも登場するし、
真犯人は意外性の高い人物であるし、
それなりにクライマックスを感じることができた。

なんといってもポーカーで犯人を当てるという
その独創的なアイディアはやはり秀逸と言うべきだろう。

このクオリティでも、シリーズの代表作である
「グリーン家~」や「僧正~」にはまだ劣るというのだから
この先の作品を読んでいくのが楽しみになってくる。

クイーンのような派手さはないが、面白い。
個人的には、ヴァン・ダイン、かなりのお気に入りである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ヴァン・ダイン
感想投稿日 : 2012年5月7日
読了日 : 2008年1月31日
本棚登録日 : 2012年5月7日

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